現在、青年海外協力隊およそ2,500人が発展途上国の経済発展や福祉の向上を支援するためにおよそ60か国におもむいている。ODA(政府開発援助)として、JICA(国際協力事業団)を通じて派遣された青年である。
遠野市出身者の中にも、発展途上国の現場で国際協力にたずさわっている人たちがいる。その中に、ケニアの奥地に拠点を構え、30年近くも暮らしている女性がいた。食物・栄養学研究家の故岸田袈裟さん(遠野市上郷町出身)である。
岸田さんは、JICAの専門家としてケニアの人たちの食生活改善や病気の予防に取り組んできた。1994(平成6)年JICAから派遣され、ケニアのエンザロ村に赴いた。エンザロ村は、赤道直下に位置し電気も水道もガスもない。当時、村の人々は濁った川から汲んだ水を飲用し、石を3つ置いただけのカマドに鍋を乗せて調理していた。煮炊きの燃料は薪。熱効率が悪いため薪をたくさん必要とし、森林破壊の一因ともなった。
薪をあまり使わずに、水を煮沸して殺菌する方法はないか。岸田さんは、ふるさとの遠野に古くから伝わるカマドを村に広めた。泥をこねるだけで簡単にでき、材料は土と石でただである。燃料もそれまでの4分の1で済むようになった。カマドは3つの口があり、その一つに蛇口をつけた素焼きのつぼを置き、常時煮沸したお湯や水を飲めるようにした。蛇口(1つ100円)だけは、ODAでまかない、カマドをつくった家には、蛇口を無料で配布した。コックをひねるだけでお湯がでる蛇口は、村の人々にはとても便利に思えた。カマドはエンザロ村の300世帯からはじまり、西ケニアの6万世帯にまで広がった。 |