森村 誠一
2006年8月28日(月) 「新・オリエント急行殺人事件」(森村誠一・著)を読む |
本の世界に限ったことではないが、1つの作品に強く影響されて別の作品が生まれることがある。「日本沈没」(小松左京・著)と「日本以外全部沈没」(筒井康隆・著)はその1つの例である。33年後、「日本以外全部沈没」も映画化され、9月2日公開、主演はなんと、あの元祖「日本沈没」でも主演した藤岡弘だそうだ。心憎いキャスティングだ。 こんなことは推理小説の世界にもよくあること。夏樹静子の「そして誰かいなくなった」は、アガサ・クリスティの「そして誰もいなくなった」への挑戦か、オマージュか、はたまた挑戦か。「Wの悲劇」は、エラリー・クィーンの「Xの悲劇」、「Yの悲劇」、「Zの悲劇」に触発されて発表したものなのだろうか。 しかし、さすがは夏樹静子。「そして誰かいなくなった」は本家本元に劣らないほどの本格ミステリーだった。殺人の場は豪華クルーザー・インディアナ号(本家本元はインディアン島だった)であり、同じように一人一人殺されていき、予想を覆すラスト。お見事! 「Wの悲劇」は薬師丸ひろ子主演で映画化された。映画も観たし、その後原作も読んだ。もちろん、エラリー・クィーンとは全く別の作品であり、和辻家の悲劇、それもダブル(二重)の悲劇を描き、これはこれでとても面白いミステリーだった。 そして今日読んだ「新・オリエント急行殺人事件」。アガサ・クリスティの超有名な「オリエント急行殺人事件」に「新」を付け、新しい味付けでオリエント急行内の殺人事件を扱うミステリー、そう期待して読んだ。 しかし、見事に期待はずれ。最初の16ページこそ、日本からのツアー客10名も乗るオリエント急行を舞台に物語が始まるが、その後は、日本に戻って来てから、日本国内でストーリーが展開する。たまたま一緒に行ったツアー客の何人かが日本で殺されるのだ。日本で起こった自動車事故に関わる復讐劇で、題名のオリエント急行とは全く関係がないストーリーだった。三陸海岸ツアーでも、琥珀の旅グループでも良かった。題名は読者を引き付ける効果を狙ったもの、と思われる。 内容からすると、むしろ、「古代遺跡殺人事件」だ。前半、次々と顕になる、ツアー客どおしの乱れた男女関係は、途中までは意味を持つが、結局は作者のミスリーディング。そして、遺跡から発見された凶器と思しき旧石器時代の「握り斧」。これが途中から全く無視される展開におかしい、と読者は感づく。あれが意味を持つ人間が犯人か。だったら犯人になりうる人間は一人しかいない。ラストの犯人解明の章を読む前に、犯人の予想が当たる、珍しい推理小説、と思ったら、さらに一ひねりあった。 結局、2つの交通事故が、連続殺人の動機に関わってくる。しかし動機として弱いし、何かひっかかりを感じる。結局、「新・オリエント急行殺人事件」は、題名の見掛け倒し。本の代金返せよ、と言いたくなる。 |
2002年7月28日(日) 「砂の碑銘」(森村誠一・著) |
「人間の証明」や「野生の証明」、「超高層ホテル殺人事件」など、一時期、夢中になって読んだ森村誠一の作品である。久しぶりの森村ミステリーはツンドク状態の書棚から取り出して読んだもの。発行日は昭和60年とあるからかなり古い文庫本(角川)である。 自分の出生と生育に疑問を持っている主人公・志鶴子は、ある日電車内で女が男の懐中から何かを掏り取ろうとする現場を目撃する。危うく痴漢にされそうになる男の窮地を救ったのは、犯行現場の証言者として警察に協力した志鶴子である。お礼を述べる彼の言葉に、彼女のうつろに記憶に残る訛りがあった。そして彼と会う約束をした当日、彼は何者かに殺害されていた。志鶴子は幼い頃の記憶をたどって、長野へ、そしてアメリカへと旅立つ。 思いもよらぬ人間関係が判明していく、これも推理小説を推理小説たらしめる常套手段である。しかしこの本では、作者は無理やりつじつまを合わせようと不自然な人間関係を作りすぎたようだ。生みの親、育ての親、一人っ娘だと思っていたら姉がいた、さらに義理の兄、それに近親相姦が関わり、脅迫、そして殺人とおどろおどろしく物語りは展開する。さらに思いもよらぬ主人公の逆襲。あれっ?このパターンは「野生の証明」で作者が使ったものだ。彼女にも野生がひそんでいたのだ。 本の中ほどで、いや3分の2あたりかな、容疑者がいとも簡単に殺人事件の自供をする。動機も十分にあり時間的にも犯人であることは間違いがなさそうだ。しかし、この推理小説はまだまだ続くはず。お決まりの別の真犯人が現れるに違いない。 予想どおり、終盤になり新たな犯人が逮捕される。当然のごとく彼も自供する。これで解決か、と思うが、ページ数はまだまだ、7、80ページは残っている。さらに第3番目の犯人がいるのか、かなり手の込んだミステリーだなあ、と思ってページをめくると、ジ・エンド。何のことはない、その後短編で「殺意の航跡」というのが収録されてあるじゃないか。期待を持ちすぎて拍子抜けした。 |
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