折原 一(2)

2015年2月3日(火) 「侵入者」(折原一・著)を読む 
 当サイトのミステリー・折原一のページを見ると、氏のミステリー小説を過去に10冊読んでおり、「侵入者」は折原作品11冊目に読んだ作品となる。
 2000年の年の瀬に起きた世田谷一家殺人事件をモチーフとするミステリーで、被害者が夫婦と長男長女、事件発生が年末であること、犯人は翌朝まで現場にとどまっていたと思われること、インターネットを操作し、冷蔵庫の乳酸品などを食べたこと、遺留品が多いことなど、実際の事件とこの小説内の事件はかなりの部分でシンクロする。実際の事件はまだ未解決であるが。
 この作品中語られるもう一つの事件は板橋資産家夫婦放火殺人事件。これも2009年に実際に発生した事件であり同様に未解決である。折原氏は大胆にも実際と同じタイトル「板橋資産家夫婦殺人事件(抄)」として、作中の”自称小説家”に事件語らせ、犯人を推理させる。
 事件発生前、自称小説家は板橋資産家の夫婦に頼まれそれぞれの「一代記」を執筆することになる。その取材を通して夫婦の養女だという女性、名前は千里といった、と深い中になる。ミステリー小説に恋愛は描かれないのが普通だが、作者は強引に2人に恋愛感情を抱かせる。それが解決に何か意味を持ってくるのか。そう思うのが当然だが、結局千里は何だったのか。もちろん犯人ではない。途中から存在さえもあやふやになってしまう。
 後半は犯人をあぶりだすための再現劇となる。どこまでが真実で、どれが創作なのか。実際こんなことをやる意味があるのか。強引な展開にやや引いてしまう。2つの事件でピエロの仮面をかぶった人間が登場するが、これが犯人なのか。つまり同一犯人か?
 終盤、ピエロの仮面をはがされた男は自称小説家だった。しかし、彼は再現劇のピエロの役を演じたにすぎなかった。ピエロの仮面は遺族の1人がクリスマスイブに買った小道具で4つあったはず。その後ピエロの仮面を付けた人間が何人か登場する。
 解決編と思われる第2部終盤を見ても、それが小説家の推理なのか現実なのか、再現劇の脚本どおりの筋書きなのかよく分からない。何よりもこんなことして犯人があぶりだされるのか。すっきりしない。
 視点をコロコロ変え、創作劇、ノンフィクション、ルポルタージュ、それに幕間なんかもあり、相変わらずの折原節は味わえるが、今作はあまりに技巧に走り過ぎたきらいがある。2014年9月発行の新作単行本であるが、文庫本になる時はもっと分かりやすく、書き換えも余儀なくされるかも知れない。
   


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