東野 圭吾 その2
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2008年6月3日(火) 「流星の絆」(東野圭吾・著)を読む ラスト、まさかの犯人に唖然 |
東野圭吾の最新作「流星の絆」は最速32万部ベストセラーだという。帯には「東野作品No.1!」とか「東野ワールドの決定版」、「著者会心の感動大作」、などというフレーズが躍る。これでは文庫本発刊まで待てない。早速、単行本を買って来て読んだ。500ページ近い長編だが、サクサクと読みやすい。そしてもちろん、面白いしどんでん返しもある。土・日と昨夜まで、つまり3日で読んだ。 功一、泰輔、静奈の3兄妹がペルセウス座流星群を見に行っている間、洋食屋「アリアケ」を営む両親が殺された。犯人はわからず、3兄妹は児童養護施設へ。そして時は流れ、時効直前の14年後にドラマは待っていた。3人とも20代の若者に成長している。今や3人は、なんと詐欺師グループ。功一が案を練り、静奈がカモに近づき、泰輔がフォローする。もちろん警察に捕まるへまはしない。成功率100%だ。 ある時、彼らのターゲットの親が14年前の犯人に違いないとの状況証拠を得る。警察に届けるか、自分たちで復讐するのか。その前にあいつが犯人であるという確たる証拠を見つけよう。時効は迫る。それとなく警察が動くような仕掛けをする。 全編、東野圭吾節炸裂。二転三転するラストはお見事。えっ、あいつは犯人じゃない!?じゃあ、犯人はいったい誰なんだ。これまでの登場人物の中で誰が犯人になりうるか?ページをめくる手を休め最初から考えてみる。自分で自分をじらす。犯人はもうすぐ判明する。しかしまだそのページを見るな。考えろ。推理しろ。無理なら予想だけでもよい。 何とか思いついた人間はコンビニの店員ぐらい。ビニール傘を買っただけの接点だ。動機はあるのか。と言っても他に犯人になりそうな人物はいない。まさか新たに登場させる人物?そんなことはない。いくら何でもそれはルール違反だ。 そして、まさか、まさかの犯人に愕然とする。そりゃあないだろう。確かに言われてみれば伏線はあった。しかしいくら何でもそうくるのか。そして詐欺師グループだった3人の扱い方はハッピーエンド。特に女性の静奈は超特別扱い。あれほど平然と嘘をいい男をだまし続けた静奈が最後は一番いい思いをするなんて。読者は納得するだろうか。最後のページに涙した読者も多いということだが、無理やり感があり釈然としない。金を返せばいいという問題ではなかろうに。 ということで、ラストの意外などんでん返しに星5つであるが、読後感はイマイチ、爽快感なし、感涙も出ない。兄妹が流星群を見るシーンは2度出てくる。流星群の夜に犯人と思われる人物にアリバイがなかったなど、流星群は事件の背景として使われるが、「流星の絆」というタイトルはどうかな。雰囲気のあるタイトルであることは確かだ。 隠し味にしょう油を使ったハヤシライスを食べてみたくなった。 |
2008年4月15日(火) 「十字屋敷のピエロ」(東野圭吾・著)を読む |
現在(多分)49歳の東野圭吾が31歳の頃に書いた作品のようだ。最近の一連の東野作品、どちらかと言えば(心を揺さぶるような)社会派ミステリーとは全く違う、本格的なゴシックミステリーであり、彼のミステリー作家としての幅の広さを示1冊であろう。綾辻行人の「館シリーズ」と同系列の作品であるが、綾辻ワールドより重厚さは少なく、幾分軽いタッチのようだ。綾辻のように、切れのある剛速球ど真ん中ではなく、どちらかと言うと思い切り変化球でかわされた感じを受ける。 最初のページに登場人物一覧があり、その中には車椅子の人物もいるし、謎の人形師という人物もいる(せむし男の使用人はいなかったが)。次に十字型をした洋館、十時屋敷の見取り図があり、主な登場人物8人の部屋が示される。少年と仔馬の置物、そして悪魔を呼ぶというピエロの人形も。うれしいね。まさに古典的な推理小説の王道とも言える要素が揃っている。こんなミステリー、久しぶりだ。 十字屋敷で自殺した(実は殺された)竹宮夫人・頼子の四十九日の夜に新たな殺人事件が発生する。今度は頼子の夫とその愛人だ。ストーリーは竹宮水穂の視点と、いわく付きのピエロの人形の視点で語られる。ピエロの人形はすべてを見ていた、というわけ。 しかし、このミステリーの探偵役は誰なんだ。普通は、流れからして最初から登場する水穂だと思っていた。もしかしたらピエロの人形か、そんなことはないだろう。途中から登場する人形師も有力な探偵役のキャラクターだ。水穂と対立していた大学院生の青江なのか。しかしこの青江も殺されてしまう。中途半端な登場人物たちの役割に、中盤は幾分中だるみ。特に人形師。存在は思わせぶりで無駄なミスディレクション。 ラストは畳み掛ける展開。結局犯人は1人ではなかった?そんなミステリーとして邪道な!いや1人であることは確かなんだろうが、共犯者というか協力者がいた。しかしさらに真犯人の裏にもう1人いた?いくら何でも彼女が?読む人によって真犯人をどちらにでもできそうな、さすが東野圭吾の変化球ミステリー。「ゲームの名は誘拐」、「どちらかが彼女を殺した」、「私が彼を殺した」などと同様なテイストのラストである。 |
2007年9月28日(金) 「殺人の門」(東野圭吾・著)を読む 面白いが気持ちが暗くなる |
悪意に満ちた人間ばかり登場するやり切れない小説だ。だったら読むのを止めればいい?ところが、どっこい、面白くて面白くて、つい寝不足になるのも忘れ読んでしまう小説である。 田島よ、早くそいつを殺せ、今こそ殺人の門をくぐるのだ!何度、心の中でで叫んだことか。殺せ、殺せ、殺せ!なんと物騒な。でも、たぶんラストは殺すんだろうな。途中まで読んでいてそう思った。長い小説だが、このパターンで最後まで引っ張るのか。平凡な日常⇒倉持出現⇒罠にはめられ⇒殺意が募るが⇒殺人の門を越えられない⇒倉持と別れ⇒平穏な日々。この繰り返しだ。 歯科医の息子、田島和彦。幼少の頃からいじめられだまされ、母親による祖母殺人の噂で両親離婚。父親に引き取られるが、その父親も夜の女にだまされ歯科医廃業、ついに田島家が崩壊する。要所、要所にはいつも近くに倉持修がいた。何だ、この男は。次第に悪魔のような本性が現れていく。しかし田島は情けなくも、倉持の罠にはまっていく。もはや逃れられない罠だった。 呪いの手紙や賭け五目並べ。これにも倉持が関わっていた。田島の初恋の女性を妊娠させたのも倉持(と推測できる)。彼女は自殺する。倉持を殺してやりたい、殺したいほど憎い倉持。 就職してからも、倉持に誘われ手を出す悪徳商法(豊田商事事件って昔あった)、ねずみ講商法、老人を騙すジジババ落とし、不正株取引会社など。田島はいいように捨石として倉持に利用される。田島は懲りない人間なのか。学習能力の欠如、優柔不断、いい大人が、いい加減気付けよ! そしてはめられた不幸な結婚、仕組まれた浮気相手など、読んでいていらいらしてくる。危ないぞこの女は、などと、普通の人間ならそう思う。しかし、田島は倉持の仕掛けた罠に見事にはまっていく。もうどうしようもない男だ。お前はまったくのアホだ。 と思いつつも、さすがに東野圭吾のミステリー。読みやすい文体で人間の弱さや内に潜む悪を表現し、早い展開、予想どおりの主人公の行動などとあいまって、我を忘れて読み続けられる小説だ。風呂に入りながらと寝る前に読んで3日で読了。朝読ならぬ風呂読が僕のリーディング・パターン。 読後感は?サイアク。気持ちが落ち込んで、しばらく東野圭吾の小説はごめんだな、と思えてくる。人に薦められる?う〜ん、ビミョーだな。すさんだ気持ちになってもいいから、とにかく面白い小説、飽きない小説を読みたい人にだったら勧められるかな。 |
2007年9月24日(月) 「秘密」(東野圭吾・著)を読む 切ない小説だ 最後は泣ける |
広末涼子主演で映画化された作品である。東野圭吾節が終盤にたっぷりと味わえる小説だった。感情が高ぶり、それまで淡々と進んでいたストーリーが急に悲しい(最初から悲しい小説だが)、切ない展開を迎える。今回も思った、東野圭吾の作品にハズレはないと。 こんなことがありえるのか。そんなバカな、と思う。妻と娘がバス事故に遭い、妻は死亡、娘は奇跡的に助かるが、身体は娘でも娘の中身(意識)は妻だった。映画「転校生」では高校生の男と女が入れ替わったが、ちょうどあのように人格の入れ替わり、あるいは乗り移り、憑依?が起こってしまう。 主人公の平介は、時には妻・直子と、時には娘・藻奈美と、奇妙な3人?での生活を送る。夫婦愛か、親子愛なのか。嫉妬も感じる平介。かなり不自然な設定であるが、これはラブストーリーだ。やがて事故を起こした運転手の不可解な勤務ぶりやその妻の死亡など、徐々にミステリー色も帯びてくる。それでもやっぱりストーリーの柱は平介と直子/藻奈美の関係が中心だ。 小学6年生だった藻奈美は徐々に成長する。中学生、そして高校生になる。身体は娘でも意識は妻の直子だから、時々夫に甘える。夜に、あれしようかとか、あれしていいよとか。笑っていいのだろうか。そんなユーモア小説ではないはずだが。 その時に平介はどうするか。この場面はこの小説の中で2度登場する。1度目は、娘とそんなことができるかと拒否する。第一身体が、などと言う。これは当然だ。しかし、2度目は・・・。 藻奈美に男友達ができたらしい。平介の行動は異常を極めるようになる。電話器の盗聴など、娘だと思ったらそこまでやるか。妻への激しい嫉妬であろうか。。平介と娘(意識は妻)の関係はギクシャクというか、最悪になる。 扱い方によっては、SFファンタジーにも喜劇にも、思いきりB級にもなる設定であるが、そこは東野圭吾。終盤にかけてストーリーは意外な展開を見せる。そして、「秘密」とは平介と娘(妻)との関係と思って読み進めていると、ラストから数ページ前で、本当の「秘密」が明かされる。切なくなり、涙が出そうになる。人によってはラストに号泣などとなる。 映画は観ていないが、広末涼子も好きな女優だし、DVDを借りて見ようかと思う。広末がもちろん娘と母親の二役を演じるという。 |
2007年8月25日(土) 「私が彼を殺した」(東野圭吾・著)を読む |
「どちらかが彼女を殺した」と同様に、読者参加型本格ミステリー。今回、容疑者は3人だ。被害者は流行作家の穂高誠。殺されて当然のワルである。どうして美和子はこんな男を愛し結婚しようとするのか。最初は美和子も穂高の毒殺に関わってくるのかと思っていた。 容疑者は、まず穂高のマネージャー、駿河直之。表面上はこいつが一番怪しい。穂高にこき使われ、恋人を盗られたことが動機か。 次に、美和子の担当編集記者、雪笹香織。穂高に捨てられた過去を忘れていない。毒入りピルを準子の部屋で盗んだ。 3人目は美和子の兄、神林貴弘。兄妹でありながら禁断の愛情を妹に抱く。もちろん婚約者の穂高を殺したいほど憎む。毒の効き目を愛猫に試した。 ストーリーは「○○の章」として、3人がローテーションで一人称視点で事件を語る。3人とも自分の章で、《俺が、あたしが、僕が》殺した、と言う。毒殺であり、犯人が現場で手をくだす必要がないから、死亡の知らせを聞き、3人とも、ついに(自分が)殺ったと本気で思う。 しかし、もちろん、警察(おなじみの加賀刑事)にはしらばくれる。絶対に真相は判明されないはずという自信を持つ。そして推理小説でおなじみのラスト。穂高邸に関係者全員がそろって、加賀刑事が推理を展開する。やがて、「犯人は、あなたです」、と加賀刑事が言うが、東野圭吾は読者に挑戦するかのように、この台詞でこのミステリーを終わらせる。おい、おい。。 よく読めば犯人は分かるはず、ということか。しかし、例によって細切れ読書。やっつけ仕事ならぬ、やっつけ読書の時もある。細かいことを整理しながら読んではないのだ。最後の解決編を読んで、なるほど、なるほどと思い、ああ面白かったと満足する読み方である。犯人を自分で考えろ、とは、欲求不満である。 巻末に「推理の手引き」として袋綴じ解説がついている。すぐにはさみで切り読んでみたが、「どちらかが彼女を殺した」と同じ、教授と助手の会話で推理を展開するだけ。ならば、インターネットだ。 さすがに、インターネット、犯人を明記している。しかし「メフィスト」という雑誌に掲載された初版とその後では犯人を変えているという。なら、別の解決編も可能なのか。準子の自殺も毒殺だったというのはどうだろう。あるいは、「私が彼を殺した」という題名のヒント。容疑者は3人とも自分を「私」と呼んでいない。「私」と言う登場人物は美和子だけだが、彼女が犯人という説はないのか。 |
2007年8月18日(土) 「宿命」(東野圭吾・著)を読む 東野圭吾の作品にハズレはない |
「ラストを先に読まないでください」と文庫本の帯に書いてある。推理小説を読むのにラストを先に読む人はいないと思うが、わざわざそう書いてあるからには、よっぽど予期せぬラストで読者をびっくりさせるのだろう。敢えて解説も読まずに本編を読んだ。 宿命のライバルがいた。和倉勇作と瓜生晃彦である。父親が刑事だった勇作と、大会社の御曹司、晃彦。生活環境は全く異なるが、小学校に上がる前からお互いを意識しあっていた。同じ小、中学校、高校と通い、成績は常にトップを争っていたが、なぜか晃彦が1番、勇作が2番。勇作は晃彦を越えられないことに不満を感じるが、どうしようもない。 目指した大学はどちらも医科大学だった。しかし勇作は父親の突然の死亡により医大進学をあきらめ、父親の跡を継いで警察官への道を歩む。晃彦は順調に医大を卒業し、父親の会社経営には関わらず、医者となる。妻には美佐子を選ぶ。 晃彦の妻、美佐子。何かの糸を感じながら晃彦の求愛を受け入れた彼女であるが、実は美佐子は高校時代、勇作の初恋の女性だった。大学受験をあきらめ、警察学校に通う頃に初めて男と女の関係も結んだ。そして今、勇作はある殺人事件の捜査の中で、美佐子が晃彦の妻になっていることを知り愕然とする。どうしてこうも、勇作は、ライバル晃彦の後塵を拝する結果になるのか。 しかし、今、晃彦はある殺人事件の容疑者となっている。十数年ぶりに勇作はライバル晃彦と対峙する。ジャ、ジャーン!! 誰がどのようにして殺したか、アリバイ工作は?という普通の推理小説の楽しみもある。しかし、この小説には、普通の推理小説の起承転結の他に、勇作対晃彦のライバルとして宿命が、別の方向で、つまり警察関係者に知られることなく、描かれる。 ラスト10ページほどから明かされる、ある「宿命」に、読者はエー!と声を挙げるだろう。さらに追い討ちをかけるように、序章に登場し、窓から落ちて死亡する女性、サナエのこと、レンガ病院のこと、晃彦の父親らが研究していた脳医学のこと。鳥肌がたつほどの衝撃を受ける。それなりにラストを予想しながら読んだが、あまりの予想外に、さすがは東野圭吾。ギブアップである。 そして東野が書きたかったいうラストの1行。なるほどこんなオチがあったのか。確かにラストを先に読んではいけない。ただし読者はあの1行に隠された意味をきちんと読み取らなければならない。文字通り受け取っても、だから何なの? 「宿命」を読んだ方いますか。あのラスト、予想できましたか。これから読もうと思っている人、ぜひラストの衝撃を味わってみて下さい。 |
2007年7月31日(火) 「白夜行」(東野圭吾・著)を読む 長いが面白い! |
1973年に殺人事件が発生する。容疑者は何人か浮かぶが、交通事故死したり、ガス事故死(あるいは自殺?)したり、結局、動機すら分からないまま、事件は迷宮入りとなる。 被害者の息子は桐原亮司、そして容疑者の1人にも浮かんだ女、その女の娘が西本雪穂だ。暗い目をした少年と、並外れて美しい少女。この2人が主人公のはずだが、物語は雪穂の成長とともに、雪穂の周りで起こる事件、事故、犯罪を中心に進められる。亮司はいったどこで何をしているのか。 文庫本で850ページを越す長編である。第1章から第13章まで、章ごとに数年の隔たりがあり、各章ごとに新しい人物が登場する。彼らが雪穂と、表には出ないが亮司らしき人物と関わりながら、不幸になっていくパターンが多い。これは雪穂の策略なのか。強姦、恐喝、横領、サイバー犯罪など、暗い事件がよく起こるのだ。これらは果たして雪穂とどう関わってくるのだろう。彼女は魔性の女か。見え隠れする亮司との関係は? 各章が単独の短編かと思うほど工夫された構成である。一見つながりそうがない人物、ストーリーが次第に絡まり、ラストにはすべてつながる。最終章でジグソーパズルのピースが次々とはめられるように、全体像があらわになる。そして思いがけない急転直下のラスト。普通の推理小説のような長い長い自白などの完結編はない。 ラスト数ページで明かされる犯人と動機。犯人はだいたい予想がつく。問題は動機である。伏線は数箇所に張られてあったが、全く思いもよらない動機だった。さすがに東野圭吾のミステリー。ラストはやっぱり切ない。胸が痛くなるラストである。廃墟のビルであんなこと、現実的ではないと思うが、さすがにうまいなあと思わせる動機である。 19年間にも及ぶ物語である。その時々、時代時代の世相や事件、プロ野球の話題などを取り入れ、うま〜く練られたストーリーに読者は翻弄される。東野圭吾の代表作と言っていいのではないか。見なかったが、連続テレビドラマ化された作品でもある。面白くて面白くて夜中、ちっとも眠くならないぐらい興奮する小説だった。 プログラムの保存にフロッピーディスクでなくカセットテープを使っていた頃も確かにあった。マージャンなどのゲームソフトもカセットテープで売られていた時代である。今の若者には信じられないだろうな。機種はNECの88(ハチハチ)とか98(キュウハチ)とか。懐かしいね。 |
2007年7月24日(火) 「名探偵の呪縛」(東野圭吾・著) 感想は?う〜ん・・ |
「名探偵の掟」同様、(名)探偵、天下一大五郎が活躍する本格的おちゃらけ(?)ミステリー。天下一はチェックのジャケットを着てメガネをかけている?お前は金田一少年か。もじゃもじゃ頭をかきむしる?今度は金田一耕助じゃ。おや、ステッキも持ってるのかい?シャーロック・ホームズばりだねえ。 登場人物に言わせる。本格推理小説はご都合主義とか、人間が描けていないとか。これは「館シリーズ」の綾辻行人へのあてこすり、皮肉か。東野自身の本格物からの決別をこの作品で読者に知らしめたってことか。大勢の登場人物を説明した人物表と、奇怪な形をした屋敷をバカにした記述もある。そして「私」は言う。 「リアリティ、現代感覚、社会性。この三本柱を大切にしたいですね。でないと、これからの推理小説界を生き残っていけません。トリックや犯人当てなんてのはどうでもいいことです」。東野の最近の作品に共通する三本柱だ。どこまでが冗談でどこまでが本心か。真面目に読まない方がいい小説である。 それでも、密室殺人事件(家具を使ったトリックは自分でも解けそう)、人間消失(犯人が複数という掟破り)、嵐の館での連続殺人事件(いくら何でも短い間で殺し過ぎ)など、本格ミステリーもどきを楽しめる。まあ、本格物のパロディとして軽く読み流そう。 「掟」か「呪縛」か。断然、「掟」の方が面白かった。 東野圭吾のミステリーを2冊、並行して読み、288ページの本書を今日読み終えた。一緒に読んでいるもう一冊は「白夜行」。なんと、文庫本で860ページもある長編。厚すぎて長く読んでいると手首が痛くなるほどだ。今、310ページを読んでいるが、まだ半分にも行っていない。3分の1を越えた辺り。この本こそまさに「リアリティ、現代感覚、社会性」を持ったミステリー。面白くて面白くて、もう寝不足になりそうである。 |
2006年12月6日(水) 「手紙」(東野圭吾・著)を読む 映画の方が感動する? |
映画の印象が強く、原作を読んでいても、直樹は山田孝之で、兄・剛志は玉山鉄二、由実子は沢尻エリカだった。映画のシーンがそのまま頭に浮かび、台詞も映画の役者がしゃべる。電気店の社長は(映画ではワンシーンだけ、原作では後で再び登場し含蓄のある台詞を言う)、やはり杉浦直樹をイメージしながら読んでいた。 まあ、当然であろう。映画は一部を除いて原作に忠実に作ったということ。映画は2時間で、原作は読み終えるまで、結局3、4日かかった。それでも、同じ箇所で切なくなり、同じ箇所で涙がこぼれ、同じ箇所で感動する。しかし、ラストの感動は映画の方がずっと大きい。映画の方がずっと泣けるのだ。 弟を大学にやるため兄が強盗に入り殺人を犯す。何の罪もない弟であるが、それ以降、偏見と差別社会の中で挫折を繰り返しながら生きていくことになる。殺人者の弟だと知られると住居を終われ、仕事を失い、恋人とも別れてしまう。音楽バンドのプロデビューも御破算になる。そんな弟の苦悩も知らず、兄は毎月、能天気な手紙を送り続ける。次第に兄の存在にいらつき、兄との別離を決意する弟、直樹。 やがて、由実子と結婚、一人娘の誕生。やっとつかんだ幸せも、兄の強盗殺人を知る一人の人間により、またも悲劇に見舞われる。そこまでやるかというしつこさ。暗い、暗いストーリー。全く救いようのない、こんな物語のラストに、いったいどんな感動が待っているというのか。 ご安心を。ほんの一筋だけですが、光が見出せるラストです。その一筋の光に感動します。是非、ご自分で、本を読んで、あるいは映画を観て、味わってみてください。 映画が大きく原作と違うところは1箇所だけ。映画では、直樹と相棒の芸能界デビューはお笑いコンビだったが、原作では音楽デュオというところ。直樹が歌う歌が、差別や偏見のない世界を謳う、ジョン・レノンの「イマジン」だった。東野圭吾はこの「イマジン」に多くの意味を託したと思うが、映画ではお笑いネタで笑わせる。「イマジン」から「お笑いネタ」へ。最初は、東野圭吾はこの脚本でよく映画化を許したなと思った。 しかし、ラストは映画の方に軍配が上がる。原作では「イマジン」を歌いだせないまま終わる。拝み泣きをして体を震わせている兄を見つけ、直樹は声を出そうにも出せないのだ。そのまま(了)となる。映画に比べてあっけない終わり方である。それでも泣けるところではあるが、映画はあの後、お笑いネタで笑わせ、そして数分間に渡って観客を泣かせ続ける。玉山鉄二のあの演技を今思い出すだけで涙が出てくる。 |
2006年11月6日(月) 「赤い指」(東野圭吾・著)を読む ★★★★★ 読みやすい、面白い、泣ける |
「容疑者Xの献身」で直木賞を受賞し、その後の初の書き下ろし作品だという。東野圭吾の独壇場かと思わせる雰囲気のミステリーである。とても読みやすく、食事しながらでも読んでしまうほど面白い。読み始めてすぐに内容に引き込まれる。「容疑者〜」に似ているな。ラストに泣けるところも「容疑者〜」の路線である。今回のテーマは「家族と親子愛」だった。 まず殺人事件が発生する。被害者は女児。犯人は引きこもりがちな中学生の男の子である。犯人が最初から示される、いわゆる倒叙モノの推理小説だ。あとはいかに警察が完全犯罪を暴いていくかが興味の中心となるはずだ、と思っていた。 ところが、両親が子どもの犯罪を隠蔽工作しようとするそのやり方はどうしようもなく素人である。誰が考えても穴だらけの「完全犯罪プラン」だった。こんな遺体遺棄ではすぐにバレるに決まってる。バカな親子だ。特にあの母親がひどい。認知症の義母を介護することを拒否し、子どもを溺愛し、子どもの犯罪を隠蔽することを夫に強く言う。どうしようもなくバカな母親だ。 そんな妻の無理な要求に、逡巡はあるものの、結果的に乗ってしまう夫も同様にバカだった。さらに、かわいげのない殺人者である息子と認知症の母親。母親の介護は夫の妹が通いで行っている。こんなやり切れない一家にどんな感動の結末があると言うのか。あるはずがないじゃないか。どうしようもないよ。高をくくっていた私であるが、ラスト、わずかな救いに顔がゆがんだ。声を出して泣くわけにはいかないから、口を開けて我慢した。涙がこぼれ出た。 警察側の視点からは加賀刑事の活躍が描かれる。だがこの加賀刑事の親子関係もミステリアスである。なぜガンで余命いくばくもない実の父親の見舞いに行かないのだ。結局、父親が病院で臨終を待ってから、病室に入る加賀刑事。このわけはいったい何なのだ。偏屈ではない、他の作品にも登場する優秀な刑事である。しかし、この理由が分かってさらに涙が出てくる。 トリックは「赤い指」だった。しかし、作中、このトリックを考え付いたのは誰だったのか。かなり無理のある設定だと思うが、その不自然さを差し引いても面白い作品である。 |