1  「トンマッコルへようこそ」 監督:パク・クァンヒョン 音楽:久石譲(ハウルの動く城)
 出演:シン・ハギョン チョン・ジェヨン カン・ヘジョン イム・ハリョン ソ・ジェギョン スティーブ・デシュラー
 韓国語でトンは「子どものような」、マッコルは「純粋な村」という意味なそうだ。そんな村へようこそ、か。ファミリー向けのファンタジー映画だろうと思っていた。
 しかし予想はすぐに覆された。なんと、戦争映画ではないか。冒頭、連合軍の飛行機が墜落する。アメリカ兵飛行士はなんとか助かったようだ。そして知的障害者らしい少女ヨイル(カン・ヘジョン、韓国の久本雅美と言われる、なるほど似ている)が登場する。不思議な魅力を持った天真爛漫な少女である。
 次に韓国軍と北朝鮮・人民軍の地上戦が始まる。朝鮮戦争(まだ終わっていない!)だ。戦いから生き延びた兵士が数人、ヨイルに案内されるようにトンマッコル村にたどり着く。そこで相対するのが、韓国と北朝鮮の兵士たち、それにアメリカ人飛行兵なのだ。
 トンマッコルはその名の示す通り、争いや戦争を知らない、平和な村だった。純粋無垢な村人たちは、軍人たちの持つ鉄砲や手榴弾を見ても全く恐れない。手を挙げろの意味さえ知らないのだ。一触即発、両軍兵士のいがみ合いの間に立ち、村人たちの能天気な行動やのんきな台詞がおかしい。
 知的障害者ヨイルが手榴弾のピンを抜く。間一髪、投げ捨てられた手榴弾がとうもろこしの貯蔵小屋を爆破する。舞い上がったとうもろこしが一瞬にしてポップコーンになる。そして、画面いっぱい、雪のように空からポップコーンが降ってくる。注目の美しいシーンである。デイジーが咲き乱れる草原や、水墨画のような山並みも美しい。
 やがて、心優しい、ピュアーな村人たちとの交流を通して、戦争に疲れ果てた男たちの心は次第に癒されていく。一緒に農作業に励み、一緒に寝起きし、いつの間にか友情も芽生える。草原をソリのようなもので滑り落ちるシーン、いのししに追われるスローモーションのシーンなど、ファンタジックな場面も印象的である。監督はジブリ映画のファンだという。音楽は久石譲である。いのししのシーンは「もののけ姫」、道端の石像は「千と千尋の神隠し」へのオマージュなのだろうか。
 北朝鮮と韓国の兵士たち、アメリカ人飛行兵、そして村人たちが、みんな仲良く、理想郷のようなトンマッコルで平和に暮らす。しかし中盤のこののどかな場面から後半の急展開が簡単に予想される。切なくなる。やがて、連合軍が墜落した飛行士を捜索するためにトンマッコル村に向かう。落下傘部隊に爆撃機。7人の侍ならぬ7人のごちゃまぜ部隊がトンマッコル村を守るために作戦を練る。
 この秋一番のお薦め。「父親たちの星条旗」よりも。こんな切り口の反戦映画は今までに見たことがない。笑って泣いて、心があったかくなる映画である。韓国のエンターテイメントは実に質が高いと思わせる映画だ。さまざまなジャンルでほとんどハズレがない。北朝鮮で公開したらきっと核実験もなくなる?かな。
 
2  「007カジノ・ロワイヤル」 監督:マーティン・キャンベル(レジェンド・オブ・ゾロ、バーティカル・リミット)
 出演:ダニエル・クレイグ エヴァ・グリーン マッツ・ミケルセン ジュディ・ディンチ ジェフリー・ライト
 シリーズ21作目、6代目ボンドは賛否両論のダニエル・クレイグ。金髪で青い目のマッチョマンだ。血を流し汗を流し、スーツ姿よりもシャツや上半身裸のシーンがやたらと多い。素っ裸で尻を出し拷問されるシーンもある。肉体美を誇っているようだ。女性ファンやある趣味の男性は大喜び?
 007の美学というものがある。激しいアクションにも息を切らさない、服装は乱れない。水中シーンの直後でもヘアースタイルはビシッと決まっている。敵の打つ弾丸には絶対に当たらない。荒唐無稽な小道具や子供だましみたいな装備満載のボンドカー(前作では漫画みたいに透明になった)。なぜかボンドとすぐに寝る美人スパイ(ボンドガール)。女性との粋な会話、ユーモア、茶目っ気など。かつて年に2度寅さんに会ってホッとしたように、純粋な007ファンはそんなマンネリにも満足するものである。
 逆に、敵に捕らわれ拷問されギャーとかウォーとかいうボンドは見たくない。前作では北朝鮮の捕虜となりヒゲ面・やつれ顔のボンド(ピアース・プロナズン)が登場したが最悪だった。徐々にボンドも生身の人間となったというわけか。そう言えば今回は、お馴染みのオープニング(歩いていて正面を向きピストルを撃つ)もなかった。往年のファンには何とも寂しい007だった。
 しかしアクション映画としては最高のできばえだ。抜群に面白い映画だった。内容はビギニングof 007。007の原点回帰であり、00(ダブルオー)の称号が与えられる前のボンドが登場する。じゃあ時代は何十年も前の設定か。いや、そうではなかった。まさに現代が舞台である。9.11の同時多発テロが台詞に出てくる、ケータイのメールを駆使する、そして愛用のモバイルパソコンはVAIOだった。
 冒頭のアクションは剛球ストレートがど真ん中にどーんと来る感じだ。めまいを起こしそうな度派手なアクションの連続である。巨大クレーンの追跡劇はジャッキー・チェンのようであるが、重量感とスピード感、それにリアル感はもちろん本作が断然上だ。アクションの後は風光明媚なロケ地の美しいシーンもたっぷりと堪能できる。
 ボンドカー、アストン・マーチンが登場したと思ったら、すぐにクラッシュは少し残念。横転する回数は映画史上最多とか(本当か、誰が数えたのだ)。
 
3 「サッド・ムービー」 監督:クォン・ジョングァン
 出演:チョン・ウソン チャ・テヒョン イム・スジョン ヨム・ジョンア ソン・ミナ イ・ギウ
 4組の男女の別れの物語をオムニバス風に1本の映画にまとめたもの。4つの物語がそれぞれ同時進行し、最後にどどっと涙、涙のシーン。美男とコリアンビューティ、そしてツボを抑えた演出で、観客は涙を流しっぱなし。こういうのをベタな映画というのだろうか。
 最近よく見たり聞いたりする言葉、ベタって何?こんな時便利なのはインターネットのフリー百科事典ウィキペディアだ。早速調べてみると、「誰でも分かりやすい、”平べったい笑い”が語源であり、誰もが予想できてしまう展開やオチのことを言う。ベタなギャグ、ベタな展開などと使う。お約束と呼ばれる事も多い」、とある。
 1組目は、消防士と手話通訳者の2人。消防車の救助用ゴンドラでのラブシーンにうっとり。こんなかわいい彼女(イム・スジョン)を泣かせるなよ。仲間の粋な計らいもいいねえ。どこか抜けたところのありそうな、美女スジョンのキャラに参った。
 2組目は、手話通訳者の妹(聴覚障害者で顔にやけどがある)と画学生。彼女は遊園地で白雪姫の着ぐるみのまま絵描きに恋をする。顔を出せないままデートを重ねるが、最後のデートで、突然、遊園地内の電飾が一斉にともされる。”7人の小人たち”の粋な計らい。美しいシーンだ。
 3組目はうだつのあがらない男とスーパーのレジ係りの女性。スパークリングの相手のバイトの後に始めた新しい仕事は、別れさせ屋。殴られることはお手の物だが、ラスト近く、思いがけない依頼人から依頼がくる。ラストは雨中、スーパーの外からの独白だった。
 4組目はキャリアウーマンの女性とその子どもだ。母親の愛情に飢えていた子ども。皮肉なことに、母親が病気になり親子の愛情が深まる。そして突然訪れる母との死別。泣かせるパターンとして安易であるが、交通整理のおばさんネタ、そして最後の笛の音が思いっ切り、悲しい。
 韓国映画の主役級のキャストを何人も1本の映画で見られるこの映画はお得である。この映画でもそう思ったが、韓国の男性スターは、女性に母性本能をくすぐらせる顔立ち、性格だと、改めて思った。「冬のソナタ」のペ・ヨンジョンも同様である。
 
4 「手紙」 監督:生野繁朗(3年B組金八先生) 原作: 東野圭吾
 出演:山田孝之 玉山鉄二 沢尻エリカ 吹石一恵 尾上寛之 田中要次 杉浦直樹
 弟を大学にやるため、兄が盗みに入り弾みで人を殺してしまった。兄は無期懲役となる。弟は、殺人犯の弟のレッテルを張られ、大学も、お笑い芸人としての仕事も、恋人も奪われてしまう。そんなことも知らずか、兄は刑務所から弟に手紙を書き続ける。
 杉浦直樹・老人の言う、「殺人犯の家族が差別されるのは、当然なんだ。その差別も含めて、君のお兄さんの罪なんだよ」という台詞は、この映画で言いたい核心なのかも知れない。重いテーマである。
 最近の若い女優は演技が素晴らしくうまいと思う。と言っても、私が知っている若い女優というと、長澤まさみ、掘北真希、そしてこの映画のヒロイン、沢尻エリカぐらいのものである。3人とも映画の中で素晴らしく光を放つ。観客をひきつける女優、映画館に足を運ばせる女優であろう。
 この「手紙」でも、沢尻エリカはメガネをかけ食堂を手伝う若い由美子から、直貴(山田孝之)と結婚し4、5歳の子どものいる母親まで、芯の強い女性を演じて、圧倒的な存在感を示す。彼女の献身ぶりが重く悲しい流れの中で観客をほっとさせる。彼女を見ているだけで涙が出ることも。
 お笑い芸人として相棒とステージに立った時のギャグがおかしい。悲しい場面のはずなのにどっと笑ってしまうが、その後がつらい。ラストのシーンは本当に苦しい。笑って、泣いて、また笑って、最後は泣きっぱなし。あの拝み泣きのシーンにはやられた!
 人間は本当に感謝する時は手を合わせるものなんだろう。墓参で手を合わせる、頂きます、ご馳走様で手を合わせたりする。しかし心の奥底から手を合わせる、そうせざるを得ない極限の愛が、あの合掌に現れていたのだと思う。あのシーンを見て泣こうよ、映画館で。 
 
5 「硫黄島からの手紙」 監督:クリント・イーストウッド 製作:スティーブン・スピルバーグ
 出演:渡辺謙 二宮和也 伊原剛志 加瀬亮 中村師童 裕木奈江
  硫黄島の戦いをアメリカ側から見た映画が「父親たちの星条旗」、それと対をなす日本側から見た映画が「硫黄島からの手紙」である。どちらもクリント・イーストウッドが監督しているが、シリーズとしてほとんど同時期、立て続けに公開された。2本を同時進行で撮ったのだろうか。
 これまでのクリント・イーストウッドの作品(「マディソン群の橋」、「ミスティック・リバー」、「ミリオン・ダラーベイビー」など)と同じように、重いテーマを持った映画であり、娯楽作品として「ああ面白かった」で終わる映画ではない。
 戦争映画では当然だが、日本軍はいつだって米軍に負けるのである。圧倒的な物量作戦に、すり鉢山全体を巨大要塞にしたとは言え、穴倉から奇襲作戦で臨む日本軍は哀れである。戦う前に自決したり、地雷をいくつも抱えて死人の山の中で横たわり、敵の戦車を待ったり。あの役を中村獅童が演じていたが、その後どうなったのだろう。鬼気迫ると言うか、笑えると言うか。
 栗林中尉(渡辺謙)が総指揮官として硫黄島に着任するところから映画は始まる。栗林の米国留学のことや、オリンピック馬術競技で金メダルを取った中佐(伊原剛志)、身重の妻を残してきた若い兵隊(二宮和也)、犬を殺せなかった元憲兵(加瀬亮)らのエピソードが織り込まれ、やがてアメリカ軍の硫黄島上陸作戦が始まる。その映像はほとんど白黒映画。流れる血だけがスクリーンに赤く目立つ。
 栗林中尉にただ一人反発するのが伊藤中尉(中村獅童)である。日本刀を振り回し熱演であるが、最後は非常にカッコ悪い(死人の山の中に横たわる)。さすがにクリント・イーストウッド。ハンサムな日本の歌舞伎界の寵児と言えど情け容赦ない。竹内結子を悲しませるからだよ、なんて思いながら見ていたのは自分だけか。
 アカデミー賞ノミネートも期待されている映画である。栗林の留学シーン、捕虜の米兵など一部を除き、登場人物はすべて日本人であり、台詞は当然日本語である。それを監督のクリント・イーストウッドを始め、ほとんど外国人のスタッフで作り上げた映画。しかも、日本人の心をよく表現し作品となっている。
 
6 「スネーク・フライト」 監督:デヴィッド・R・エリス
 出演:サミュエル・L・ジャクソン ジュリアナ・マーグリーズ レイチェル・ブランチャード ネイサン・フィリップス フレックス・アレクサンダー
 知っている俳優は主役のサミュエル・L・ジャクソンだけ。ある人物を暗殺するために、密室化したジャンボ機に数戦匹の毒蛇が放たれるという、「航空機パニック+動物パニック」映画である。蛇には興奮フェロモンが吹きかけられ、人を襲うようになっているという。よくもまあこんな設定を考えるものである。
 B級映画だと思うが(オバカな爆笑映画という人もいる)、怖くて、痛くて、気持ち悪い、そして機長も死んでしまうから着陸はどうすんのサスペンスもたっぷり味わえる、ノリノリの映画である。個人的には「父親たちの星条旗」より面白かったよ、エロっぽいシーもあるし、文句あっか、の映画。当然つっ込み処もあるが(特にあの蛇を退治?する方法)、ジェットコースターに乗ったような面白さはハンパじゃない。
 蛇は種類も大きさ、形もさまざまだった。いずれも毒蛇だという。そんな蛇が数戦匹も酸素マスクのように天井から降って来るのだ。もちろん床からもうじゃうじゃと。頭から飲み込まれる男性もいれば、おっぱいを狙い撃ちされる女性も(笑)。逃げ場のない機内は文字通り阿鼻叫喚の地獄絵図と化してしまう。こんな絶対絶命からどうやってFBI捜査官サミュエル・L・ジャクソンは被害者を最小限に、そして機長を失ったジャンボ機を救うというのだろう。
 まあ、ご都合主義もあるが、この解決方法が面白い。笑ってしまうが、ここで秘密を明かすわけにはいかない。映画を観た人でないと分からない面白さである。
 例によってエンドロールで、「この映画では動物は虐待されない云々」と書かれるから、蛇はすべてCGなのだろう。張りぼてが分かってしまった「アナコンダ」よりCGの技術で作る蛇の方が格段に怖い、気持ち悪い。
 この映画にはソニーも一役買っているのだろうか。プレイステーションで飛行時間2000時間?
 
7 「地下鉄(メトロ)に乗って」 監督:篠原哲雄 原作:浅田次郎
 出演:堤真一 岡本綾 常葉貴子 大沢たかお 田中泯
 堤真一は、「ALWAYS3丁目の夕日」では昭和33年の人間を演じ、今回は現代と昭和39年や昭和21年を行ったり来たりする主人公・真治を演じる。
 現代の場面ではケータイ電話を使う場面もあるから確かに平成の現代だと思う。しかし昭和39年(1964年)にタイムスリップした時の真治は中学校1、2年生(13歳か14歳)だった。ということは真治の現在の年齢は55歳か56歳ということになるが、写真でも分かるとおり真治は若すぎる。まあ、大人のファンタジーでもあるのであまりつっ込まない方がよいか。
 父親と断絶している真治が、ある日地下鉄通路を抜けると、そこは昭和39年の東京中野の街並だった。映画館には吉永小百合、浜田光夫主演の「キューポラのある街」の大看板が掲げられている。パチンコ屋で人は立って一発一発パチンコを弾いている。横の方の一角にはスマートボールで遊ぶ人もいる。ピンポン球のようなスマートボールが穴に入るとゴロゴロっと10個ぐらい出てくる。長いひし形をした皿にボールやパチンコ球を入れて景品交換所でエコーやピースといったタバコと交換する。分かる人には懐かしい場面だ。
 真治は昭和39年の東京で死んだ兄に会う。昭和21年にタイムスリップして父親に会う。父親はロシア帰りで、闇市で不法な商売をしてなりあがりつつあった。ここでなぜか、真治の不倫の相手みち子(岡本綾)とも出会う。さらに父親の愛人(常盤貴子)とも。昭和39年の場面ではその恋人は妊娠していた。その生まれてくる子どもとは・・・。おっと、かなりネタバレ。だいたい想像つくでしょうね。
 普通の人間が、なぜ地下鉄に乗っただけてタイムスリップできるか最後まで分からない。自分だけではなく、なぜ愛人もいっしょに行けるのか。昭和21年のタバコを現在に持って来たりできるか?過去に戻って死んだ兄を助けたらどうなる。有名なタイムマシンのパラドックスだ。過去を変えちゃいけないのだ。
 よく分からないシーンもあるが、そこは大人のファンタジーと割り切って見よう。まあまあ面白い映画である。結婚する前の父親のことが知りたくなる映画である。ラストにえー!と思う展開が待っている。人間関係は途中から予想が付くが、指輪のシーンとその後の意味が良く分からなかった。
 若い頃の父親の役をする大沢たかおの演技がオーバーアクションだと思ったが、熱演、名演技だったと思う人もいるだろうな。恩師役の田中泯の演技は渋い。
 
8 「父親たちの星条旗」 監督:クリント・イーストウッド
 出演:ライアン・フィリップ ジェシー・ブラッドフォード アダム・ビーチ ジェイミー・ベル バリー・ペッパー ポール・ウォーカー
 12月には「硫黄島から手紙」で日本側から見た硫黄島の戦いを描く作品が公開予定である。「父親たちの星条旗」は硫黄島2部作の第1部ということである。評判はかなり良いようだが・・・。
 アメリカ勝利&意識高揚のシンボルとなった摺鉢山に星条旗を打ち立てた6人の兵士の死闘と、生き残った3人のその後の人生を描く映画である。クリント・イーストウッドらしい反戦映画であろう。ドキュメンタリー映画のようであり、戦争映画、娯楽映画として期待して見に行くと肩透かしを食うかも。
 色彩度を押さえたモノクロに近い映像だった。アメリカ軍の硫黄島へ上陸、姿の見えない日本軍との壮絶な戦いを描く冒頭のシーンは、スティーブン・スピルバーグの「プライベート・ライアン」と比べられるようだ。音響、映像、迫力など、「プライベート・ライアン」の方が上だと思ったが、「プライベート・ライアン」のあの手振れ画像(具合が悪くなった)ではなくて良かった。
 日本兵はあまり出てこない(助けてくれえ!と火だるまシーンぐらい)。硫黄島の斜面に掘ったのぞき穴が徐々に開いていく、日本兵側からのあのシーンは日本兵の不気味をよく出している。当然だが、アメリカ人にとっては鬼畜日本兵なのだ。
 硫黄島上陸の戦闘場面と、国債資金集めのために開催する数年後の硫黄島・星条旗ショー、そしてまた数十年後の元硫黄島ヒーロー3人の回想場面が何度もフラッシュバックする。俳優たちが皆、有名俳優ではなく、画面には演ずる役柄の名前が紹介されるが、整理しながら見ないと、いったい誰が誰やらワケが分からない。そこが少し残念である。
 硫黄島で星条旗を掲げた英雄たちは作られた英雄だった。戦争に英雄なんていない、戦争に勝者も敗者もない、戦争に善も悪もない、そんなメッセージが伝わってくる映画である。
 今もなお、イラクでは多くのアメリカ人兵士が命を失っているが、この映画で何度も演奏される行進曲、「星条旗よ永遠なれ」に送られて出兵していくのだろうか。