柚月 裕子

2009年5月27日(水) 十分にサスペンスフル、面白い
 作者の柚月裕子氏は1968年岩手県に生まれ、転勤族の両親の異動により県内をあちこち転校し、20代前半で結婚・子育て、現在は山形市に在住するというフリーライター。なかなかの美人である。写真はこちらから
 「臨床真理」は『このミステリーがすごい!』大賞2009年第7回大賞受賞作。「臨床心理」の誤変換ではない、「臨床真理」。
 児童養護施設で起こる少女の自殺から施設内の闇部を、臨床心理士の佐久間美帆と友人の警察官、栗原が調査する。精神障害者である司が持つ特異な能力、人の感情が色で見えるという、が目新しい。障害者がある分野に特異な能力(記憶力や美術、音楽など)を示すことはよくあるが、なるほど、色付きの言葉というのもありそうである。
 児童養護施設の施設長が、福祉行政管理者が、はたまた精神科医が、そこまでやるかよ、という仰天展開。とても重くて、暗いテーマだ。読んでいて切なくなる。実際その分野で仕事をする人は読めなくなるような内容だ。怒るだろう。施設の職員が悪人のように描かれる。無愛想な受付の女性、指導員の虐待、施設長のうさんくささ。フィクションだからと言って許されるのか!と思うかも知れない。ラストで、ある人間の性癖も顕わになるが、まさかと思う人間である。司を担当する看護師もエキセントリックだ。
 真相は?中で何が行われているか、途中でだいたい予想がつく。予想がつかず右往左往するのは主人公たちだけ。それにしても、三位一体であるべき医療、福祉、行政がこんな悪ではやりきれない。
 予想通りの展開でこれで終わりと思う辺りで、まだページ数は100ページも残っている。まだまだ全容解明ではなかった。ここからがまたおぞましい展開となる。美帆と犯人の対決が続くが、矛盾する展開にご都合主義だあ、と思うところもある。
 読者が真相に気づくのは早いが、それでもミステリーとして第一級の面白い作品である。スピード感にあふれ、十分にサスペンスフルである。ある物を盗むため美帆が施設の倉庫に忍び込むところなどに作者の筆力を感じる。一気に読める面白いミステリー。さすがに「このミス大賞」受賞作。ただし読後感は良くない。実際の施設や行政、医療の上層部に、あんな組織的な悪やバカな人間はない。
  
 
 

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