吉村 萬壱
2003年9月10日(水) 第129回芥川賞受賞作「ハリガネムシ」(吉村萬壱・著) |
作者・吉村萬壱氏は、東京、大阪で高校教諭を務め、現在は養護学校に勤務するという。作中の主人公「私」も高校教師であるが、内容が内容だけに、私小説ではない(と思う)。普通の倫理観を持つ高校教師なら絶対にしないようなことを「私」はし続ける。言うなれば、暴力とセックスと逃避行。かなりどぎつい内容である。そのスラプスティックなあるいはサディスティックな暴力描写は読み続けるのがつらくなる。 高校で地歴・公民を教える「私」が、ソープランドで遊び、そこのソープ嬢サチコを自分のアパートに連れ込み(サチコが押しかけ)、一時的ではあるがそのサチコと結婚をしようと思う。自分の母親と弟にも紹介するが、学歴(中学校中退)や子どもが2人いることを知らせずとも、当然反対される。さらにサチコにはまだ付き合っているやくざがいた。そんなサチコと2人で夏休みを利用した四国旅行に出かける。悲惨なドライブ旅行となる。 実も蓋もないような内容である。まだ3作目という作者のテーマは一貫して暴力だと言ってはばからない。生きているのが不思議なくらい2人とも暴力や自傷事件に出会う。普通の針と糸で傷口を縫ったり、傷口に指をつっこんだり、ある部分に石を詰め込まれたり。耐え難い暴力シーンが続く。 しかし作者はたんたんと時にはユーモアを交える語り口で物語を進める。このあたり、作者独特の雰囲気が感じられ、選考委員の得票につながったのだと思う。文藝春秋9月号で読んだがすでに単行本も発売されており、かなり評判になっている本である。 |