米澤 穂信


2013年11月17日(日) 「インシテミル」(米澤穂信)を読む 
 作者は米澤穂信、「よねざわほのぶ」と読む。1978年岐阜県の生まれだからまだ35才ぐらいか。金澤大学文学部出身。主に高校生が主人公のライト・ノベルズやライトなミステリーを書いていたが、その後「インシテミル」のような本格モノも書くようになった。荒削りの感が否めない本作であるが、伸び代は無限大、といったところか。
 クローズドサークルものである。事件が発生するのは人工的に作られた閉鎖空間、地下に作られた暗鬼館という施設だ。外界との接触は完全にシャットアウトされ、その中で殺人事件が連続して発生する。南海の孤島や吹雪の山荘ものとはちょっと違う。アナログ対ディジタルと言ってもいいか。暗鬼館は、ある人物により意図を持って人工的に作られた施設である。天候は関係ない、周囲が海である必要がない、電話線やテレビ線が切断される必要がない。
 登場人物は12人。高額の時間給の広告を見て集まってきた人物たちである。クリスティの「そして誰もいなくなった」でも登場人物は10人。吹雪の山荘モノで集まってくるのは10人以下が定番だと思うが、ちょっと多いと思う。
 それでも一人ひとりのキャラが立ってれば別だが、人物の描き分けがゆるい。少年っぽさを持つ少女。彫りが深く顎のラインが細い、綺麗な男。女性的な容姿と声をしている美形の男。様になっていないビジュアル系、金髪の男。要するに男だか女だかよく分からないキャラクターが4人も登場するのだ。モノセックス的な人物を好きな著者なのか。
 「インシテミル」という題名の意味は何だろうと思った。答は本文中にあった。外国語だと思った言葉は日本語だった。つまり、「淫してみる」。「淫す」とは「度が過ぎる。度を過ごして熱中する。ふけること」、あるいは、「みだらな事をする」。「みだらな」は漢字で書くと「淫らな」。つまり「淫す」はあまり良い意味ではない。
 時給112000円、7日間無事に過ごせれば法外な給料を手にできる。それにつられて応募してきたのはまとまった金でそれぞれ目的をもった男女12人。主人公は最初冴えない大学生の結城だ。後半急に探偵に早変わりする。あまりの変幻ぶりに唖然とする。そして大学のミステリーサークルの繋がりで探偵がもう一人いた。ラスト近くプリズンに収監された2人がビールを飲みながらミステリー談義をする。オチャラケである。
 結局12人中、自殺も含めて6人が死ぬ。連続殺人犯も判明する。ありえない動機も。しかし解明されないことが多すぎる結末にがっかり。そもそもこんな大それた実験・デスゲームを計画した人物や目的が示されない。何不自由ないお嬢さまキャラ、冷静沈着で頭脳明晰な探偵キャラだと思っていた須和名の正体が明かされない。本格モノにはタブーな秘密の抜け穴をいとも簡単に見つけて興ざめ。
 実際に6人も死んでいるのに誰も罪を負わず、7日後に地上に出てきた6人に高額の給料が支払われる。最高額はある人物に振り込まれた十億円。十分に淫してるよ、もう。 



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