渡辺 淳一
2005年4月26日(火) 「幻覚」(渡辺淳一・著)を読む 読売新聞で好評の連載小説だった |
![]() 自由な時間をゆっくり楽しもうと思っていた。あれもしたいしこれもできる。しかし大谷にとって現実はほど遠かった。家の中では何もしない、いや何もできない。掃除、炊事など一度もやったことがないから何をどうするのか分からない。今日をどう過ごすか、どこに出掛けようか毎日悩む。1日の長さに堪え切れず不安と苛立ちが高じ、結局は妻は主人在宅ストレス症候群だ。 金はすべて妻が管理し多額の退職金も企業年金も自分で自由に使えない。自分が使える小遣いは月に5万円だけ。朝起きれば犬コタロウと散歩、戻れば妻に追い立てられデパート、スーパー、図書館で時間をつぶす。帰宅後TVの前で酒飲んで眠る。あ〜情けない。こんな団塊人間いるものかとイライラ。渡辺淳一の勘違いか手抜きの駄作か。 くだらなくて読むのを止めようかと思った頃〜すでに後半〜、デートクラブの会員になり、小西佐智恵27歳に入れ込む。入会金、デートの仲介料、食事代、タクシー、小遣いなど、家を出た妻からやっとの思いで取り戻した通帳から、10万単位で残金はどんどん減っていく。それでもデートはまったくのプラトニック。自宅に呼んでも手も握れない。それでも気持ちはアバンチュール。 定年後のダメ男を描くにしたって、天下の渡辺先生、もっと奥が深い作品が書けるはずだ。貧しい陳腐なストーリー展開に、渡辺先生、読者を何と思っているのだ。情けない限りだ。1600円(+税)を出して買う本ではない。図書館から借りた本であるのがせめてもの慰め。団塊の世代をバカにしてはいかんのだ。 |
本の帯には、「現代の精神医療と美貌の女医の心の闇に迫る」などと、大上段に構えた紹介文が書いてあるが、それから受ける印象とはだいぶ違う小説である。軽い、読みやすい、そして、肩ひじ張らない、大変面白い小説だ。お決まりの渡辺淳一ワールドも展開されるから、好きな人(何を?)にはたまらないだろう。 31歳の看護師・北向が一人称で語る”どちらかというとラブ・コメ”、と言ったら渡辺淳一(先生)に怒られるかな。まあ、後半はラブコメに当てはまらない展開となるが、北向が美貌の精神科医、氷見子先生36歳と、ホテルで一方的愛(?)を成就させる中盤までは本当に笑える。渡辺淳一には珍しいコメディである。特に前半はそう思う。 しかし医学博士でもある渡辺淳一の作品である。医学的知識をバックボーンに、強迫性障害、適応障害、異常人格、人格崩壊、躁うつ病など、現代の精神医療分野の説明も怠らない。登場人物の具体的症状と共に説明されるから、大変分かりやすい記述となる。いや〜、勉強になるなあ。 最近よく聞く、心的外傷後ストレス障害、つまりPTSD(Post Traumatic Stress Disorder)や、男性の機能障害ED(Erectile Dysfunction)も詳しく説明してくれる。なるほど、カリーナEDという車種がなくなった訳がわかった。EDなんてネーミングじゃあ、健康な男が乗ったらおかしいもんな。 最初は北向の一方的な思い込み、片思いが、31歳とは思われないヤワな文体で切々と語られる。高校生ぐらいのうぶな若者が年上の女性に抱く恋心のようでもある。そして後半、或る共通点を持つ患者たちと氷見子先生の秘密が徐々に判明する。果たして氷見子先生の秘密とは何だったのだ。この辺りは推理小説の謎解きの趣きである。まあラストまで読まずとも秘密はだいたい推理できるが。 面白い小説が読みたい、そう思う人に迷わずおススメの一冊でる。この本を貸してくれたM氏に感謝。 |