和久 峻三 

2008年12月3日(水) 「遠野・京都 橋姫鬼女伝説の旅殺人事件」(和久峻三・著)を読む
 赤かぶ検事シリーズの1作で、題名に含まれる「遠野」に引かれて買った文庫本だ。目次を見ると、「第3章 遠野メルヘンの使者」、「第5章 浄土ヶ浜の惨劇」とある。遠野のほかに宮古も登場するようだ。実際、宮古は京都とつながりもあると言われているし、方言や地名に共通点も見られる。大いに期待を持って読んだ。
 しかし、がっかり。作者の和久峻三氏は実際に遠野と宮古に取材旅行で訪れたのだろうか。遠野も宮古も取り上げ方がいい加減だ。被害者の1人が遠野出身の女性だった、事件を解く鍵となる赤い布はオシラ様信仰で使われる布のようだ。この2点だけが遠野にかかわる。しかし布はオシラ様信仰とは関係なかった。遠野物語も登場しない。
 宮古では浄土ヶ浜パークホテルと思しきホテルに関係者が宿泊する。そのホテルから続く遊歩道で別の被害者が絶壁に落とされる殺される。ただそれだけだ。その地を実際に訪れた人でなければ表現できない旅情やその地の文化、風土と言ったものが全く紹介されないのだ。これでは遠野の人は怒るだろう。目次の浄土ヶ浜に引かれて買った宮古の人もがっかりするだろう。
 冒頭、行天(ぎょうてん)巡査部長夫妻の会話を通して伝えられる、京都、宇治にある橋姫神社の鬼女伝説は怖い。橋姫神社は縁切り神を祀った神社だという。どこにでもある縁結びの神ではなく縁切り神だ。そこのご神体は瀬織津姫(せおりつひめ)で、裸身に緋の袴をはき、右手に釣針、左手に蛇を握り締めた恐ろしげな鬼女の神像で、想像するだけでも鳥肌のたつ、嫉妬に怒り狂った鬼神の形相だと言う。
 「髪で角をつくり、鉄輪を結び、鉄輪にはろうそくを灯し、真っ赤な着物をまとって、口には火のついたたいまつ〜」などの伝説の元となったのがこの瀬織津姫なのだという。
 しかし、和久峻三氏はこの瀬織津姫が遠野、早池峰神社や上郷町来内の伊豆神社にも祀られているということをご存知なかったようだ。陸前高田などの神社にも祀られているようだ。橋姫神社の瀬織津姫については薀蓄を紹介するが、その後の展開で遠野が出てきても、おどろおどろしい瀬織津姫の鬼女伝説はもはや登場しない。この点もがっかりである。
  

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