若竹 七海
2004年2月28日(土) 「海神(ネプチューン)の晩餐」(若竹七海・著)を読む |
若竹七海とは初めて読む作家である。1963年生まれというからまだ40歳そこそこ。出だしは1912年のタイタニック号から始まり、物語の終わりは1941年、日本が真珠湾攻撃を行う直前である。加奈陀(カナダ)、沙市(シアトル)、晩香波(バンクーバー)、桑港(サンフランシスコ)など、外国地名の漢字が当時の雰囲気をかもし出す。 主人公は欧米の探偵小説を読み漁ることを無常の楽しみとする苦労知らずの資産家、本山高一郎。舞台は横浜港からシアトルまで海上を航行する豪華貨客船・氷川丸の船内に限られる。ミステリーの世界には打ってつけの場である。 これだけのお膳立てなら、当然その10日間の航行中に起こる連続殺人事件を期待して読み進む。裏表紙の紹介文にも、著者渾身の本格長編ミステリーとある。 しかし、期待は見事に裏切られた。殺人事件が発生しないミステリーなんて。金髪美人とは子供だまし。かつらを使った男の変装だった。金髪美人の幽霊も同じ。しょぼいトリックに唖然。探偵役の本山高一郎も、途中、これが本当に世界のミステリーを読み漁った男の言う言葉か、この程度の推理しかできないのか、と思われる部分が何箇所かある。作者の意図が分からない。 さらに登場人物のキャラクターが描ききれていない。特に外国人登場人物が、読み終わってからも印象に薄い。事件にどのように関わって結果どうなったか、ジョージとエディスの関係は?、不仲の夫婦は誰と誰だっけ?など、きちんと整理しながら”精読”しなければ分からない。 唯一面白いと思ったのは作中の作品、ジャック・フュートレル作の「消えた女」。実在のミステリー作家の作品であるが、密室殺人事件の解決編を数ページ失くしてしまい、氷川丸の乗客らが推理する場面が単独で面白い。 ラッパのマーク大幸薬品の正露丸が、実は、露西亜(ロシア)を征伐する”征露丸”だったということを知る。 |