天藤 真
2002年2月2日(土) 「大誘拐」 |
誘拐をテーマとする推理小説や犯罪小説は山ほどある。先月読んだ「リミット」(野沢尚・著)もそうだった。誘拐は多くの作家が小説にしやすい題材の1つなのだろう。しかし過去の多くの誘拐小説とは似ても似つかぬ面白い誘拐物となると、なかなかそう簡単には書けないと思う。よく言われるように、犯人にとっても警察にとっても、身代金の授受が最大のポイントとなる。だから作家は今まで誰もが考え付かなかった方法を考え出そうと知恵を絞る。オリジナリティがなければどれも同じような内容の誘拐小説となるのだ。 その点から言うと、この「大誘拐」は、実に奇想天外な、過去に例のない(と思われる)プロットで読者を楽しませる誘拐推理小説だ。厳密には殺人事件が全く起こらないから推理小説とは言えないかもしれないが。 誘拐団に拉致されるされるのは日本一の大富豪のおばあちゃん。身代金は何と100億円だ。1万円札は100枚で130グラムだそうだから、1000万円で1.3キロ、1億円で13キロ、10億円で130キロ、100億円では1トンと300キロにもなる。ジュラルミンのトランク1個に約1億5千万円入るそうだから、100億円だとトランク67個と計算される。 こんな前代未聞の身代金をどうやって奪うつもりなのか?しかし、犯人たちは絶対不可能と思われるこの犯罪を成功させる。しかもテレビ中継までさせながら。身代金は全部現金で奪い取り人質のおばあちゃんは3日後に無事に帰される。そしてこの手の小説にお決まりの愉快なエンディング。 第32回日本推理作家協会賞受賞の傑作長編推理小説であり、「喜劇・大誘拐」として映画化もされた。随所にユーモアを含み、会話がすべて関西弁であることとあいまって、何度もゲラゲラ、時にはニヤニヤ、クスッと笑いながら読み進んだ。こんなにうまくいくはずなんか絶対にない、と思いながらも、楽しく読んだ。 |