高野 和明


2006年9月23日(土) 「K・Nの悲劇」(高野和明・著)を読む 怖い小説だ 夜一人で読めない
 高野和明のミステリーを読んだのは、江戸川乱歩賞受賞作の「13階段」、それに続く「グレイブ・ディッガー」、そしてこの「K・Nの悲劇」で3冊目となる。それぞれ性格の異なるミステリーであるが(タイムリミットサスペンスは共通)、どれも本当に面白い。評判であるにも関わらず期待はずれだったり、駄作と思われるミステリーも巷には溢れているが、高野和明のこの3冊は読んで絶対に損はしない小説である。
 実は、「K・Nの悲劇」は題名の「K・N」に引かれて買ったものである。「Xの悲劇」、「Yの悲劇」、「Wの悲劇」など有名な本格的ミステリーがあるが、今度は「K・Nの悲劇」か。K・Nは自分のイニシャルでもあるが、他の「〜の悲劇」同様に本格モノかなと思った。しかし内容は全く予想外。確かに悲劇には違いないが、題名から内容は全く類推できない。面白くて怖い、読んだら止められない小説なのに、題名は芸がなくインパクトが感じられない。
 じゃあ、どんな題名がいいのか。映画「エクソシスト」を思い出す小説である。妊婦に死んだ女が取り憑く。つまり憑依(ひょうい)する。精神医学では解離性障害というそうだ。だから、題名はずばり「憑依」でいいじゃないかと思った。あるいは「死霊」、「悪霊」、「悪魔祓い」など、この小説が怖い小説だと先入観を抱かせる題名はいくつでも考えられる。ただし芸がないのはどれも同じかな。
 それにしても本当に怖い小説である。そして面白い。男の自分でも深夜にこれを読むと寒気がする。何度も鳥肌が立った。突如、妊娠している自分の妻が他人になるのだ。憑依人格だ。目がつりあがり、口は裂け、奇声を挙げ、そして「私は誰?」。風呂で髪を洗っている10本の指がいつの間にか15本になっていたり。オカルトやポルターガイスト現象がビデオに写っていた。妻の幼なじみの友人が死んだ社(やしろ)に行くシーンも怖い。思い出してもぞっとする。
 超常現象をすべて科学的に説明する精神医学者と、霊媒師に悪魔祓いをお願いしようとする夫。憑依人格は胎児を殺そうとしているのか。助けようとしているのか。果たして生まれてくる子どもの正体は?妻は誰に何のために憑依されているのか。仙台駅コンコースで迎える驚愕のラストは涙が出る。ネタバレではあるがラストは本当にホッとする。怖いままで終わらないから安心して読んでよい。
 作者、高野和明という人間は実にすごいストーリーテラーである。「13階段」に続き映画化されるのを期待したい。
 
2001年10月9日(火) 「13階段」 第5章の最後の1行に声をあげる
 第47回江戸川乱歩賞受賞作である。赤川次郎や宮部ゆきえら5人の選考委員全員一致での受賞作品であったという。さすがによくできている推理小説だ。
 題名から察しがつくように登場人物は死刑執行に関わる人間達である。死刑確定囚の冤罪をはらすためデッドラインと戦いながら、不可能と思われる意外な真犯人探しを行う。さまざまな伏線を散りばめ、読者へ挑戦しているかのようなストーリー。ミスリーディングにだまされまいぞ。
 しかし、どんなに注意深く読んでいっても、誰でもあっと驚く第5章最後の1文。その後に第6章と最終章があるからまだ結末ではないのだが、その衝撃にしばらく本を投げ出し、なぜ、なぜ?が頭の中でグルグル。そして本当に意外な第6章と最終章へとつながっていく。今年読んだ推理小説の中でトップのおもしろさである。
 高野和明という作者は初めて知った人である。1964年生まれというからまだ37歳ぐらいだ。映画やテレビ、Vシネマのスタッフや脚本家だったそうだ。その彼が死刑執行や刑務所、死刑囚のこと、刑務官のことなど、普通には知りえない内容について生々しく書いている。巻末の参考文献の多さをも見てもよほど研究したということが覗える。特に、筋書きには直接関係ないと思われるが、死刑執行の様子を微にいり細にいり、数十ページにわたり書いているのにはあぜんとする。そして死刑執行人の苦悩。まったく初めて知る内容である。映画「ダンサー・イン・ザ・ダーク」を思い出すところがある。 
 
2003年1月5日(日) 「グレイヴディッガー」(高野和明・著)
 東京都内で一夜のうちに発生する無差別連続殺人。犯人は、なぜか中世魔女狩り伝説に登場するグレイヴディッガー(墓堀人)の姿をしていた。黒いマントにフード、顔には中世騎士の仮面をかぶる。伝説によると、グレイブディッガーは復讐のために墓から甦った死者ということだが。。
 東京の被害者は全員、ある事件の目撃者であり、骨髄移植のドナー登録者であった。被害者のこれら二つの共通点が意味するものは何か?そして主人公、悪党面の八神もまたドナー登録者だ。だが事件の目撃者ではない。彼は自分の骨髄を白血病患者の少女に移植するために病院に行こうとしている。だがたまたま訪れた友人の殺人現場に出くわし、警察と謎のカルト集団、そしてグレイヴディッガーに追われることになる。
 怒涛のごとく展開する逃亡と追跡劇はハードボイルド・ミステリーの極致だ。捕まるわけにはいかないのだ。生涯にただ一度の善行。何が何でも逃げのびるのだ。絶体絶命が続く逃走劇はまるで映画、「逃亡者」と「追跡者」。話しが錯綜する中間部は少々疲れるが、ラストの主人公と犯人との一騎打ちは見事な頭脳的対決。溜飲が下がる心地よさがあった。
 しかし、一気読みしなかったからか、あるいは警察と公安の機構に疎いせいか、よく分からなかった場面が何箇所かあった。何度も繰り返し読んでも分からなかったのは324ページ、2人の会話の部分である。八神が堂本の声色で彼の居場所を探ったってことなのか?そうとしか読み取れないが、もしそうだとしたら無理がある。安易である。それからのフォローもなしでは、安っぽいミステリーのご都合主義にならないか。それとも自分の読みの浅さなのだろうか。別のシチュエーションが読み取れるのか。分からない。誰かに教えてもらいたい気持ちだ。
 「命からがらの窮地に立たされたとき、そういう場合に結ばれた男女の仲は長続きしない」。あれ、このフレーズ、どこかで聞いたことがあるぞ。そうだ、映画「スピード」の中で、ヒロインのサンドラ・ブロックの言ったセリフじゃないか。映画では「極限状態で結ばれた二人の仲は〜」だったが、同じことだ。「スピード」ではキアヌ・リーブスと、「スピードU」ではジェイソン・パトリックとの「極限状態での愛」について言っていたことを思い出した。



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