翔田 寛
2011年4月7日(木) 先日読んだ「誘拐児」(翔田寛・著) |
![]() 昭和21年、闇市の雑踏の中で身代金受け渡しの場面。犯人は袋のネズミだと思われたが、警察はまんまと犯人に身代金100万円を奪われる。誘拐された5歳児は戻ってこない。警察の大失態だ。 15年後の昭和36年、21歳青年谷口良雄が登場する。誰が考えてもこの谷口があの誘拐児だろう。しかし誘拐犯人は誰なんだ。今の母親は本当の母親なのか。恋人の幸子と一緒に、過去の痕跡を尋ねて歩く2人。 一方、25歳の下条弥生が殺害された。誰かを強請っていたようだ。犯人は下条のアパートを家捜ししていたが、何を探していたのか。この事件を追う刑事が4人。2人ずつ、お互いに反目し合い、それぞれ別の切り口から殺人事件に迫る。徐々に15年前の誘拐事件につながっていく。 「雪冤」より読みやすかった。登場人物の台詞が多く、分かりやすかった。ラストの意外性はそれほどのものではなかったが、人情話にもっていくのはどうだったか。ちょっとしらけたかな。特に母親が洟を啜るエピソードなど。 大きな不満が1つ。ミステリーの暗黙のルールとも言える真犯人の登場のさせ方。思いがけない犯人像はミステリーの醍醐味であるが、たいてい犯人は冒頭から(少なくとも前半の早い段階で)に普通に登場しているはず。まさかと思う展開に欠かせない設定であろう。 しかし、この作品では、犯人は後半に登場する人物だった。偶然会った人物であり、普通は誰も真犯人とは考えない。まあ、そこが作者の狙いどころだったのかも知れないが。 戦後の闇市の雰囲気はよく出ていたと思うが、昭和36年は、もっとらしさを出してもよかったのではないか。ジョン・F・ケネディ就任、赤木圭一郎事故死、ガガーリン飛行士地球一周、柏戸大鵬同時横綱昇進、銀座の恋の物語、上を向いて歩こう、王将、七人の刑事etc。これらはみな、昭和36年。 |