篠田 真由美 

2010年6月16日(水) 「閉ざされて」(篠田真由美・著)を読む
 函館の西郊、海を望んで建つ白いモダニズム風邸宅、雪華荘。そこで引きこもり生活を続け、手記や手紙でこの物語を語るのが主人公、汀(みぎわ)だ。ゴチックミステリーの雰囲気があり期待は高まる。
 兄、洽(あまね)は東京で大学生活を送る。父親は3代続く老舗宝石店の店主であり、病気で余命いくばくもない。御他聞にもれず遺産をめぐり争う家族たちがそこにいる。
 汀には秘密があった。ラストで判明するが、実はその秘密は汀だけではなかった。汀を生んだ母親にも同じような秘密があった。その秘密を巡る謎がこのミステリーの中心となる。その謎とはいったい?
 横溝正史や高木彬光の時代なら決して扱われなかったであろうテーマだ。つまりこのミステリーのテーマはきわめて現代的なテーマである。10年ほど前ならその言葉さえ世に出てなかった。しかしその謎は中盤以降、もしかしたらと想像に難くない。
 そしてこのミステリーはいわゆる叙述ミステリー。手記や手紙、遺書などには、事実が客観的に述べられているはずだが、読者は信用していいのか。客観的だとしても意図的に伏せられている事実もあるかも知れない。その辺りを注意深く読めば叙述の謎は見えてくるだろう。
 綾辻行人の館シリーズを思わせる設定であり、期待して読んだが何か物足りなさが残った。「閉ざされて」とは言うが汀は自ら望んでそうしているだけ。第三者によるものではなかった。閉鎖的な重苦しさ、息の詰まるような閉鎖性を期待するとがっかりする。
 最後に、作者は男は容姿が醜いという前提に立ってこの小説を書いているようだが、かなり強引である。
 

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