大石 圭 

2007年12月8日(土) 「自由殺人」(大石圭・著)を読む こんなに人が死ぬミステリーも珍しい
 大石圭は「呪怨」で知られるホラー作家。ホラー系ミステリーはあまり読まないが、本屋でたまたま手にとって裏表紙の紹介文、「ある日、突然、殺人を選択する自由があなたに与えられたら、どうしますか。〜以下略〜」につられて買った本(角川ホラー文庫)である。
 ある人物から一般人12人にアタッシュケース入りの爆弾が送られてきた。何のためらいもなく警察に届ける人間もいるが、クリスマスの人ごみの中で爆破させようとする人間もいる。これはまるで無差別テロと同じだ。人里離れた山中で自爆しようとする人間もいる。また、憎き同僚や上司を含めリストラされた会社を爆破させようとする人間もいる。
 爆発は計8回起こる。辻堂では44人が死亡、本厚木のレストランでは52人、鎌倉のマンションでは84人、東京湾の豪華クルーザーでは130人、平塚のサーカステントでは889人、横浜のデパートでは121人、横浜郊外の自然公園では1人(これは自爆)、平塚の住宅では錦鯉と猫だけ(これは主人公と犯人の対決の後)。こんなに死者の出るミステリーも珍しい。
 9.11同時多発テロの影響で発表が控えられたという(作者あとがきによる)。しかしこの小説の犯人はテロリストではない。単なる大金持ちのストーカーだ。ラストはなんとも情けないただの男だ。もっと極悪人に設定した方が面白いのに。そしてこいつの爆弾送りつけの意図がはっきりしない。一般市井の反応やその後の行動を見るためなのか。元マラソンランナー朝香葉子とのあるゲームの行うための取引に使う計画的なものか。
 後者だとしたらあまりに非現実的である。もっと楽な多くの方法があったろうに。部屋中に朝香葉子の写真、マネキン、フィギュア、マラソンウェア、シューズなど。そんな異常なストーカー人間と、あの爆弾送りつけとは結びつかない。あまりにも強引である。
 主人公、葉子のストイックなまでのランニング(犯人のとのゲーム)に読者は同調するだろうか。葉子は多数の命を救うために自分の命を賭けて走った。その結果は、皮肉にも犯人1人だけの命を救ったことになる。最後を読んで笑ってしまった。
 

Hama'sPageのトップへ My Favorite Mysteriesのトップへ