恩田 陸 

2007年4月8日(日) 「夜のピクニック」(恩田陸・著)を読む
 2004年に設立された本屋大賞という一種の文学賞がある。過去1年間に刊行された日本の小説を、本屋に勤務する書店員が投票で選ぶ賞であり、「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本」という触れ込みである。主催は本屋大賞実行委員会。偉い肩書きのある文学者や著名人が選考委員でないところが特徴的だ。
 その第2回(05年)の受賞作が「夜のピクニック」である。観なかったが、この作品は映画化もされた。監督:長澤雅彦、主演:多部未華子、石田卓也。知らない人ばっかりだ。長澤雅彦?長澤まさみなら知ってるけど。石田卓也って誰だ?城卓也なら知ってるぞ。「骨まで愛して」(^^ゞ。。
 作者、恩田陸の母校である水戸一高にもあったという昼夜を徹して80キロを歩く学校行事。同じような行事は各地にけっこうある。盛岡から宮古の浄土ヶ浜まで歩いたり、遠野から釜石観音まで歩く中学生もいる。二戸市から県営運動公園まで歩く高校の応援団もいる。しかし、数年前、宮城県で、酒酔い運転の車が集団歩行の列につっ込み死傷者が出たとこともあり、最近では取りやめになった学校もあるようだ。
 朝8時からただひたすら歩き続ける高校生たち。何度か休憩を取り、食事や水分を補給し、2時間程度の仮眠を取りながら、翌朝まで歩き続ける。そんな歩行祭にどんな大きなドラマがあると言うのだ。登場人物たちの疲労感と共に読んでいる読者も疲れてくるに違いない、そう思っていた。
 しかし、さすがに本屋大賞受賞作。作者・恩田陸はみずみずしい高校生たちを爽やかに描き、ごく普通の(進学校の)高校生の物語なのに、最後まで飽きずに読ませるのは彼女の力量の為せる技であろう。実際に80キロを歩いた経験があるからこそ、時間の流れと場所、疲労感等に現実味がある。
 実は異母兄妹だった高校生男女、いつの間に紛れ込んだ少年の怪談っぽいエピソード、海外留学した女子高生のおまじない、歩行祭にあることを実行しようとする女生徒、妊娠させた男子高校生を探す友人、歩行祭で迎えた誕生日のこと、様ざまなエピソードが実にしなやかだ。ベタな青春小説ではない、登場人物たちの感性に現代を感じられる作品である。
 なお、2004年第1回の受賞作は「博士の愛した数式」(小川洋子・著)、2006年第3回は、「東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜」(リリー・フランキー・著、そして最近発表となった2007年第4回受賞作は、「一瞬の風になれ」(佐藤多佳子・著)である。
  
2005年9月6日(火) 「六番目の小夜子」(恩田陸・著)を読む
 恩田陸(おんだ・りく、女性である)のデビュー作であるという。単行本では、バリバリ本格派の綾辻行人が解説を書いているということと、本の題名、それに昔の口裂女を思い出す表紙のイラストに惹かれて買った。何年か前にNHKで放送されていたと思うが、その原作本であろう。ドラマは見ていないが原作とはかなり違っていたとか。
 ある高校に伝わるサヨコ伝説はこれも一種の学校の怪談である。文化祭の集団劇はホラー仕立てであり、転校生の沙世子は伝説上のサヨコなのかなど、ミステリー仕立てでもある。しかし、タッチは軽く、中高生がよく読むような青春小説のスタイルを採る。懐かしさがじわじわ伝わってくる。部室の臭いや下駄箱のすっぱい臭いが漂ってくるようだ。
 ミステリアスな転校生が引き起こす事件や事故は何度もフィクションで取り上げられるテーマである。この本でも転校生、沙世子の周りで奇妙なことが起こる。しかもその年は3年に一度のサヨコ伝説の年であった。沙世子がサヨコなのか。サヨコ伝説の仕掛け人は誰なのか。
 ミステリアス沙世子は無口で美人(?)。何かあるぞと読者の関心を引き続けるのは当然だが、何か違和感があるのだ。読み始めの印象と中盤以降、この沙世子のイメージが全く異なるのが原因である。
 文化祭で行う集団でのサヨコ劇(秋の章)は盛り上がるシーンである。クライマックスと言ってもいいだろう。だが小説全体から見るとまだ半分ほどの所。後半に事件が解明するはずだが、この後半の盛り上がりに欠ける展開は何故だろう。そうか、この本はファンタジーなのだ。ジグソーパズルの最後のピースがピタッとはまるような、推理小説の結末を期待してはいけないのだ。そのように納得しよう。
 テレビではどんな風に映像化したのだろうか。再放送しないかな。
 

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