大村 友貴美 

2012年2月3日(金) 「存在しなかった男」(大村友貴美・著)を読む 
 綾辻行人氏が言う”21世紀の横溝正史”、大村友貴美の作品だ。彼女は岩手県出身(たぶん北上市)で、現在は滝沢村在住という。年末の盛岡文士劇にも一昨年から2年続けて出演し、今や売れっ子ミステリー作家だ。文士劇でお顔も拝見したが。。
 彼女の作品を読むのはこれで2作目。ど〜んと大きな謎を冒頭に持ってきて、読者は最初から物語に引き込まれる。このテクニックはたいしたもの。この作品も1ページ目からもう、心ワクワク。これぞミステリーという導入だった。最初の1ページを見た途端に買いたくなるだろう。遠野市立図書館で、私はこの1ページを見てすぐに借りてきた。
 タイへの新婚旅行から帰る飛行機の中、夫は飛行機の中で失踪。いったいどこに消えたのだ。この展開は、ジョディ―・フォスター主演の「フライトプラン」を思い出す。ジャンボジェット機内で、ジョディ―・フォスターが目を覚ますと隣にいるはずの6歳の娘の姿はなかった。誰に聞いても知らないという。たった一人で機内を探し回るジョディ―。いったい娘はどこに消えたのだ。
 同じように、奈々が目を覚ますと隣に夫はいなかった。もうすぐ成田空港に着陸の時間帯だった。誰か知り合いにでも会いに行ったのか。飛行機は着陸体勢に入りシートベルト着用ランプが点灯している。着陸したら元の席に戻ってくるだろう。特に心配もしなかった。
 しかし、機が着陸しても夫は戻って来ない。ケータイも通じない。着陸ターミナルに先に行っているのかもしれない。しかしそこにも夫はいなかった。夫のトランクだけがぐるぐる回る。しかたなく、自分のトランクと夫のトランクをカートに積み込み空港を出る奈々。夫は機内からいったいどこに消えたのだろう。
 デ・ジャブ(既視感)は「フライト・ナイト」、既読感はフランス語でどういうのか分からないが、既読感もあるぞ。夏樹静子の作品だったような。
 その後、消えた夫を探し回る奈々。しかし飛行機の乗客名簿に夫の名前はなかった。警察では奈々の狂言を疑う。本当に2人でタイに新婚旅行?
 やがて、夫は死体となって戻ってくる。犯人は奈々?まさか。
 あっと驚く冒頭から中盤は普通のミステリーへ。これしかないだろうというという、割と平凡なトリックに少しがっかり。大村さんの、前回読んだ作品も消化不良ぎみだったが、これもそうだろう。結局力不足か。
 とは言え、岩手の若手、偉大なミステリー作家、大村友貴美さん。ファンの一人として応援していきたい。 
 
2010年2月2日(火) 「霧の塔の殺人」(大村友貴美・著)を読む
 筆者は滝沢村出身・在住のミステリ作家。「首挽村の殺人」(未読)で横溝正史ミステリ大賞を受賞し、華々しい作家デビューをした。その後、「死墓島の殺人」を発表、この「霧の塔の殺人」で3作目となる。前2作と同様、岩手県が舞台だ。
 岩手県の太平洋岸にある小金牛村。もちろん架空の村であるが、盛岡から車で3時間ほど、大船渡市との合併も取りざたされ、釜石より南にある村という設定である。ということは旧・三陸町(すでに大船渡市と合併)の小石浜か綾里か。
 展望台ベンチに男の生首が置かれていた雲上峠は住田町にまたがるから、国道107号線の荷沢峠と考えられる。本書での描写のとおり、急勾配・急カーブが連続する難所として知られている所だ。
 海からすぐ山、狭い平地、がけにへばりつくような小集落、リヤカーでの魚行商、漁業協同組合や生産組合、ご近所の目など、その土地勘はもとより、読者が岩手県人なら(それも沿岸出身者なら猶のこと)、読み進める上でアドバンテージとなる。
 探偵役らしき人物は新聞社の釜石支局に勤務する一方井。釜石南署の刑事たちも登場し、盛岡警察署からも応援にやってくる。地名に馴染みがあるから冒頭からすんなりと内容に入っていける。冒頭、地元の名士の生首が発見され、第2の生首事件も。連続猟奇殺人事件だ。
 しかし途中からストーリーは、岩手県選出の国会議員、国新党の鷹森幹事長殺害の予告事件へと移っていく。ちなみにこの鷹森は、与野党逆転で次期総理とか、選挙に強い辣腕政治家など、小沢一郎を思わせる人物である。
 焦点がずれてくる。連続生首猟奇事件はどうなったのだ。さらに別件発生。今度は両親殺害、放火事件だ。
 不満が大いに残るミステリだった。それは何故か。
 1 事件の解決は終盤にたまたま起こったトンネル崩落事故で人骨が発見されたおかげだった。警察や新聞記者の推理により事件が解決に至ったというものではない。真相は当事者が一方井にただペラペラしゃべるだけ。こんな解決編はしらける。
 2 被害者が多すぎ、登場人物が多くて図に書いて整理しながら読まないと混乱する。生首が2つ、その他の殺人事件が2件、両親殺し、警察の発砲による被疑者死亡、2人の毒殺未遂事件、38年前の殺人も2件あり、子どもが轢き逃げ死亡事件も起こる。さらに女性が拉致され、主人公も殴られ意識不明など。ワケが分からなくなる。
 3 犯人が1人じゃない。これはミステリの常識から外れる。複数人で複数件の殺人事件を起こし、お互いがアリバイ工作で嘘の供述をしていた。こんなのありかい。
 4 人物描写が気に食わない。何よ、あのぶち切れ発砲課長。あんなのが県警にいるはずがない。一方井の相棒とでも言うべき森記者のやる気なさ。あのような人物を新聞社で採用するはずがないじゃないか。一応主人公の一方井もラストでは別人格のように行動するのも違和感がある。
 5 過疎化が進む小金牛村に歴史民族資料館があり、埋蔵文化センターがある。ドラッグストアがありコンビニもあった。出身者に大学教授がいて弁護士もいる。最初の被害者は国会議員にまで顔の利く名士。有能なやり手の人物がこんな小さな過疎の村にそんなにいるのかい。
 6 無駄が多く長すぎる。エピローグも長い。鷹森幹事長との対決で本当の黒幕は幹事長だったと思わせるが、一切を否定して飛行機に乗りロンドンに飛ぶ。もちろん警察からのお咎めもなし。やはり小沢一郎とかぶるキャラだ。
  

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