野里 征彦
2002年6月10日(月) 「プランクトンの夜」(野里征彦・著) |
野里征彦(のざといくひこ・57歳)氏は大船渡市在住の作家である。3月下旬の岩手日報に推理作家としてデビューする彼の紹介記事が掲載された。それ以来気になっていた彼のデビュー作がこの「プランクトンの夜」だ。本格的社会派ミステリーである。 アルファベットの文字をスプレーペンで身体に吹き付けられた死体が発見され、やがて猟奇的かと思わせる連続殺人事件へと発展する。上野界隈に犯人を追う所轄と警視庁の刑事たち。彼らが容疑者としてマークするのは上野公園内を住処とするホームレスのリーダー的人間だ。さらには怪しい人物としてニューハーフの男やバイセクシュアルの女性、美形の男性画家たちを登場させ、異様な雰囲気がただよう。どうやら、プランクトンをイメージさせるホームレスを描く「絵」。これが謎を解くキーとなりそうだ。 捜査本部の刑事たちも異色だ。サラ金に借金を重ね警察署への取り立てにあわてる刑事もいればヤク中毒の刑事(最後は殉職)も出てくる。主人公の刑事・冠馬は妻と別居中であり、その妻は高級クラブのホステスをしている。警視庁と所轄の対立、キャリア組みとたたき上げの対立などを絡ませ、ストーリーは誰も予想もしなかった犯人を浮かび上がらせラストへ向かう。 作者・野里氏の人間的優しさを存分に味わえる推理小説である。ホームレスを扱う小説は今までもあったろうが、こんな優しい視点で彼らを扱った小説があっただろうか。読み終わってなぜかホッとする読後感である。ネタバレになるが、もちろん犯人はホームレスではない。 最後の謎かけ、すなわち、17年前に居合わせた人物とは誰だったのだろうか。作者が読者に対する挑戦である。結局、答えを与えぬまま、終わってしまう。プロローグとエピローグを何度も読み返してみたが、わからなかった。もう一度初めから読んでみるとわかる?2度読みする時間があれば他の小説を読みたいし。。 |