乃南 アサ 

2003年8月9日(土) 「紫蘭の花嫁」(乃南アサ・著)
 巧みな心理描写に高い評価があるという乃南アサのミステリー。現在、彼女は岩手日報の夕刊に新聞小説「火の道」を掲載中である。
 何者かに追われる三田村夏季、勤務場所やアパートを変えても執拗に追ってくる謎の人物、シティホテルの女性連続殺人事件を追うエリート刑事部長小田垣、連続殺人事件の犯人かと思わせる状況にある監察医の渋沢、バー・マリエのママに無理に頼んで仕事をするようになった魔衣子、そして犯人の手記。
 それぞれ関連ないようなこれらが次第につながってくる後半は読みごたえある。十分にサスペンスフルである。特に犯人の手記の中で、ある重要人物の名前が明らかになるところなど、憎いほどの計算されつくしていると感じる。やがて夏季が追われている男の正体が判明する。
 果たしてその正体は?なぜ彼女が追われているのか、なぜ彼女は逃げているのか?分かると、しかし、これには拍子抜けする。前半の追うものと追われるもののあのサスペンスは何だったの?実に思わせぶり。
 解説の中島河太郎氏によると、「乃南さんは謎解きのミステリーに必ずしも拘泥しないから犯行の始末が十分でないのは仕方がない。謎解きを主軸にした作品は、ややもすれば実証性や論理性にはしって登場人物がこしらえものになりがちである。小説とは言え、人間性を欠いたら読むものを索然とさせる」。綾辻行人のことを言ってるみたい。


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