二階堂 黎人
2002年12月23日(月) 「諏訪湖マジック」(二階堂黎人・著) |
水乃サトルという名探偵は迷探偵。お調子者で責任感なし、女性にだらしなく、様々な分野に関するオタクである。かと思えば甘いものに目がなく各地の名物お菓子や饅頭を買いあさる。鉄道マニア、歴史マニアでもあり、そして何よりもミステリーマニア、それもアリバイトリックマニアである。 頭が非常に切れ、理路整然たる推理はかなりの本格派だ。警察や政財界のお偉方を知人に持ち、乗っている車はフェラーリやBMW、ジャガーなど超高級車である。ユニークさでは他にひけを取らない素人探偵だろう。ずっこけ、ボケ、突っ込みなどのお笑いの要素が笑わせてくれる。 「諏訪湖マジック」は、そんなオチャラケ探偵・水乃サトルの推理が冴えわたるトラベルミステリーである。中心になるのはアリバイ崩しだ。アリバイ事件の7ケ条とは、疑わしくない人間ほど疑わしい、複数の目撃証言ほど信じられないものはない、犯人が動けなくても被害者が動ける、一人ではできないアリバイ工作も二人なら簡単にできる、電話と写真を使ったアリバイはほとんど偽者である、など。ラスト近く、事件解明の中でサトルの言うこれら7カ条は説得力がある。 アリバイ工作は時間や時刻表、移動手段など細かいことがポイントになることが多いのだが、この作品では全く別の視点からアリバイが工作される。なぜ死体をもう一度殺す必要があったか、それも轢死させるという手段で。死斑という法医学的証拠について初めて詳しく知ったミステリーである。死斑は事件解明の大事なポイントとなる。 疲れる部分もあったが、単なるトラベルミステリーというより、読み応えのある本格的謎解き推理小説だった。面白い。 波多野健氏の書いている解説は一部チンプンカンプンだ。カー体験の創作、二階堂自身がコージー、カーのパスティーシュ、オカルティズムと共存するファース、ファイロ・ヴァンスの女版など。6、7行の中で出てくるこんな言葉・用語って、一部マニアのための解説じゃあないの? |