中村 文則


2005年8月21日(日) 第133回芥川賞受賞作、「土の中の子供」(中村文則・著)を読む
 芥川賞2003年の受賞作「ハリガネムシ」(吉村満壱・作)、「蛇にピアス」(金原ひとみ・作)、2004年の受賞作「介護入門」(モブ・ノリオ・作)、そして今回の受賞作「土の中の子供」(中村文則・作)。共通するものが底にある。それは、ずばり、「暴力(的)」である。選考委員の好みなのか。いや、最近の流行でもあるのだろう。同様に、幼児虐待、トラウマ、それにPTSD(Post Traumatic Stress Disorder、心的外傷後ストレス障害)も創作活動上、やはり流行りのテーマであるようだ。
 幼少時、虐待を受け、殺される寸前、埋められた土の中から”生還”した「私」が、27歳の現在、トラウマを背負いながら、肉体的・精神的暴力の中、生と死ギリギリのところで奇跡的に生きていく、そんなストーリーである。生活のパートナーは元キャバクラ嬢、白湯子。彼女も過去には、妊娠中に階段から落とされ(結局流産その後不感症)、今も酒を飲みすぎては階段から転げ落ちたり殴られたり。「私」の名前は明かされていないが、彼女の名前は白湯子(さゆこ)。夢も希望も感じられない、安易な、哀れな名前である。
 男にも、もちろんこの女にも未来は感じられない。しかしなぜかパワーは感じられる。捨て身、捨てばちののパワーではない。痛めつけられれば痛めつけられるだけ、反作用としての生きる力である。暴走族に滅多打ちにされても、タクシー強盗にナイフで切りつけられ首を絞められても、2階から突き落とされても、「私」は死なない。親のいない、”土の中から生まれた”「私」に、怖いものはないのだ。
 「私」はものを落とすことが好きだ。幼少の頃引き取られた施設でも、今住んでいるアパートでも、いろいろなものを落とした。ビン、石、缶、鉄くず、砂、トカゲなどの生き物。特に生き物を落とすのが好きだと言い、地面に落下するまでの数秒間を、微に入り細をうがつごとく表現する。まるでトカゲの次は自分の身体を落とそうとしているかのようだ。
 しかしラストは少し救われるからご安心を。


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