長嶋 有
2002年2月28日 第126回芥川賞受賞作品「猛スピードで母は」(長嶋有・作) |
芥川賞は直木賞とともに文藝春秋社の設けた文学賞である。文藝春秋だからというわけか、春・秋の年2回、受賞作品が発表される。芥川賞は純文学の、直木賞は大衆文学の、それぞれ最も権威ある賞とされている。新進作家の登竜門として社会的にも注目され、かつては石原慎太郎の「太陽の季節」など有名な作品も多い。そして平成13年度の秋(下半期)の受賞作が表題の「猛スピードで母は」である。 作者の長嶋氏は1972年生まれだからまだ30歳だ。のっけから母がスパイクタイヤに交換する描写。えっ!これ、いつの時代のこと?フロント前部についたミラーって懐かしいフェンダー・ミラーか?映画が2本立てとか、土曜日7時からは日本昔話、その後クイズダービー、そして全員集合!時代設定はどうやら20年ほど前らしい。したたかな母親(けど全然憎めない)と小学校6年生の息子の生活が淡々と描かれる。 審査員の1人である石原慎太郎氏はやはりへそ曲がりか。他の審査委員のほとんどがこの作品を受賞作に推している中、彼は言う。こんな程度の作品を読んで誰がどう心を動かされるというのだろうか? 普段、推理小説しか読まない自分であるが、たまに(純)文学作品を読んでもあまりおもしろいとは思わない。「猛スピードで母は」もそんなもんだろうと思いながら読んだ。しかし、文体によるものなのか、あの時代の二人のエピソードへの郷愁か、けっこう共感を覚える。少年の目を通した大人の世界があっさりと描かれるが、不思議な感覚だった。少年の私小説スタイルだが、はっきりと「ぼく」が主人公として語っているのではない。第三者(作者)が記述しているスタイルだが、視点は少年である。このあいまいさが不思議な揺らぎ感を与えており、この作品を新鮮なものにしているのだと思う。 しかしなんで、30歳の人間が20年前の離婚家庭の母子を、あんな風にノスタルジックに書けるのだろうか。そこが芥川賞受賞の受賞の所以でもあるのだろうが。。 |
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