森 博嗣
2009年12月21日(月) 「ε(イプシロン)に誓って」(森博嗣・著)を読む |
「謎の団体によるバスジャック」、「中部国際空港行きの高速バスがジャックされてしまった」などと本の帯には書いてある。本文には「バスジャック」という言葉が何度も出てくるが、「バスがハイジャックされた」のように「ハイジャック」という言葉は一度も出てこない。正確にはこれはおかしい。 「ハイジャック」とは「乗っ取り」を意味する言葉だ。乗り物が飛行機でも船でもバスでも関係なく、すべてハイジャックという。ハイジャックはhijackであって、highjackではないのだ。英英辞典で意味を確認確認してみよう。 ロングマン現代英語辞典によると、hijackは、to use violence or threats to take control of an airplane, vehiclee, or ship(暴力や脅しによって飛行機や車や船を支配下に置くこと)。 例文として、The ship was hijacked by four young terrorists.(船は4人の若いテロリストたちによってハイジャックされた)とある。つまり船を乗っ取ることもハイジャックなのだ。もちろんseajackやbusjackという言葉は載っていない。 だからバスの乗っ取りであってもハイジャックなのだが、日本では一般的に飛行機の乗っ取りがハイジャック、バスはバスジャック、船はシージャック(最近は電波ジャックなどという造語もある)のように使われる。 工学博士であり、某国立大学の准教授でもある作者がそんなことを知らないはずはないが、作品中にそのような記述はなかった。あえて一般的に使われるバスジャックで通したのだろう。 さて作品はというと。。C大学の加部谷と山吹の乗り合わせた高速バスがハイジャックされた。バスには爆弾が仕掛けられているという。犯人は1人のようだが、運転手も怪しい。他に仲間もいて何かあれば都内何箇所かに仕掛けた爆弾が爆発するという。彼らの要求は何だ、犯人はテロリストなのか。加部谷と山吹以外の乗客は皆自殺願望が強いワケあり人間のようだ。 とても面白い設定であり最初から飽きずに読める。お約束のトリックもあるが、実はこのトリック、警察が仕掛けたトリックだった。しかし読んだ後は少し期待はずれ。 題名にギリシャ文字(φファイ、θシータ、λラムダなど)を含むGシリーズの一冊である。大学の登場人物は共通らしい。前回読んだ「すべてはFになるも」同じだったと思う。 |
2007年1月9日(火) 「すべてがFになる」(森博嗣・著)を読む 理系ミステリー |
森博嗣は異色(中の異色)のミステリーライター。ミステリーのお約束ごとなど、なに、それ?バリバリの理系人間であり、読む方もある程度理系の思考力を持っていた方がよい。コンピューター用語の羅列に少々戸惑う。 ミステリーのお約束ごと、動機について。動機は何だったのだ?犯人は言う、「復讐をするためには、その以前に敗北が必要です。私はこれまで敗北したことがありません。ですから、復讐というものの精神さえ実感できない。理念としても、大した意義をもったものとはおもえない」など、いけしゃあしゃあと言う。 ミステリーでは犯人当て推理に到るまでの材料は、探偵役(犀川)と読者に共通に提示されなければならない。これもお約束ごとである。しかし犀川は大学の工学部の助教授。犯人と犀川の知能合戦はコンピューターを駆使した排他的なもの。当然、犀川だけが理解でき、一般の読者は理解不能という所もある。これでは読者をないがしろにしている、不公平だ、フェアーではないと非難されても仕方がない。 それでもこの作者には根強いファンが多い。私も読んでみて(まだ2作目だが)面白いと思う。適度にユーモアを交え、読後感はさわやかである。決して、怒りたくなるラストではない。 理系、理系と言われるが、犀川と萌絵の(恋愛)関係は文系の情緒がある。「ミステリーに恋愛はご法度」も一般的にはミステリーのお約束ごとの1つであるが、あえてそれを無視しているのも作者のお遊びか。コンピューターのことをちっとも分からない純文系人間には受け入れられないかもしれないが、最初少し我慢しても読んでみる価値はあると思う。 |
2002年8月12日(月) 「黒猫の三角Delta in the Darkness」(森博嗣・著) |
本格的謎解きミステリーである。古い和洋折衷の桜鳴六角邸という本格ものの定番・大邸宅が舞台となる。わくわくする設定である。 3年前の6月6日に11歳の子ども、2年前の6月6日に22歳の大学生、昨年の7月7日には33歳のOL、そして今年の6月6日に44歳の女性(桜鳴六角邸の女主人)が何者かに殺害される。しかもすべて同じ殺害方法だ。年齢と日付のゾロ目は何を意味するものか? 殺人予告と思われる脅迫状が届き探偵にガードを依頼する女主人。しかしその探偵と友人ら3人に監視されていながら彼女は4人目の犠牲者となる。しかも完全な密室での殺人である。いったいどうやって? 某国立大学工学部の助教授だという作者の森博嗣は理系人間。彼の作品を読むのはこの本が初めてだが、ユーモアとお気軽な登場人物の軽いノリで肩の凝らない本格ものと思いきや、ラストの謎解きは行列(マトリックス)の理論がものを言う。今は高校でも習う(と思う)行列だが、私が行列を習ったのは大学の一般教養・数学でだった。全く覚えていないが。 登場人物の名前にも何か秘密があるのでは、といろいろ考えてみた。アナクロムや頭取り、別の読みかたなど。しかし、最後に明かされる名前の秘密は、やはり思いもよらないものであった。ここまではいい。問題は20則。 ヴァン・ダインの「推理小説の20則」というものがある。@事件の謎を解く手がかりは、すべて明白に記述されていなくてはならない、A作中の犯人がしかけるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない、などが20まで続く。 残念ながらこの推理小説はヴァン・ダインの20則のうちのいくつか当てはまらないものがある。特に犯人についてのルール(4番目)を守っていない。なるほど犯人は確かに以外な人物である。その他にもルール違反が2、3点あるなと思った。 この小説は文庫本で450ページで冗長なきらいがある。もう少し簡潔に短くまとめることのできる内容であると思う。これはヴァン・ダインの20則の16番目。 |
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