三崎 亜記
2006年2月11日(土) 「バスジャック」(三崎亜記・著)の感想 シュールな世界を堪能できる本だ |
「二階扉をつけてください」。のっけから、そうくるのか。ドラえもんのどこでもポケットかいな。外部から通じる階段もない2階に扉をつけてどうするのか。日常の中の非日常。そう思っていたら、あのラストに、ドキッ!。だったら、次の2作品目からは構えて読もうじゃないか。 「しあわせな光」 エッ、たった3ページの作品?こんどはショートショートか。丘に登り双眼鏡で見る、おぼろげに覚えている自分の過去。そして未来のような自分。最後の2行でこの作品をアピールしようということらしいが、インパクトが薄いな。誰にも考えられるオチであると思うが。 「二人の記憶」。最近はやりの若年性アルツハイマーに侵された若者の物語かと思った。一人称で語るラブストーリーであるが、彼女の記憶のあいまいさが危うく、悲劇的なラストを期待?する。しかし、もしかして記憶中枢が欠如しているのは僕?と思わせておいてあのラスト。なかなかいいね。 「バスジャック」。全国的にバスジャックが大流行している変な世界で起きたバスジャック事件。バスジャックを能楽に見立て、シテ、ツレ、地謡(じうたい)、後見(こうけん)という定型バスジャック犯の役割分担などおふざけ。しかしどんでん返しあり、油断するな。 「雨降る夜に」。4ページの、これもショートショート。雨の降る夜に僕の所に本を借りに来る若い女性。どうやら彼女は僕の部屋を図書館と間違えているようだ。やがて、雨の降る夜を心待ちにするようにな僕。しかしラストが物足りない。ひねりがない。 「動物園」。ヒノヤマホウオウという実際には存在しない動物を作り出す、「表出」、「融合」、「拡散」、「固定」の4つのプロセスが面白い。作者の底知れぬ想像力、創造力はすごいと思う。こんなことを考える人なんて今までいたか? 「送りの夏」。7作の中で一番長い90ページの作品。身近な人間の死を受け入れがたく、生と死が同居する?4家族の物語。前の6話とは違うテイストでハートウォーミングである。小学6年生の女児の目を通して生と死を語るが、彼女にとっては貴重な「一夏の経験」。 |
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