黒武 洋
2009年1月4日(日) 「ファイナル・ゲーム」 |
黒武洋(くろたけよう)と言えば、デビュー作の「そして粛清の扉を」がベストセラー。女性教師がクラスの生徒を人質に教室に立てこもる。拳銃などの武器を持っている。やがて生徒を一人一人を射殺していく。暴走族に娘を殺された復讐だった。なんともまあ残虐、衝撃的な作品だった。最近読んだ「告白」(湊かなえ・著)と比較されるが、「告白」が静なら「そして粛清の扉を」は動である。ダイナミックな描写にぞくぞくしながら読んだ。さすがにホラーサスペンス大賞受賞作。 その黒武洋の最新作が「ファイナル・ゲーム」であり、私が読む黒武洋の作品としては2作目となる。絶海の孤島に閉じ込められた5人が1人ずつ殺されていく。最後に生き残るのは誰か。あるいは、そして誰もいなくなる?5人の中の1人、あるいは複数が首謀者のスパイ、「犬」として紛れ込んでいる設定だ。 主人公はゲームおたく、三輪貫太郎のようだ。貫太郎の目を通して5人の動きが描かれる。と言うことは彼が首謀者の「犬」であるはずがない。他の4人の中の何人かが「犬」に違いない。5人のキャラが徐々に深まり、会話を読んでいるだけで誰の言葉か分かるようになる。誰かが殺人者である。誰にも感情移入してはいけない。 まず、1人目がナイフで刺された。4人に動揺が走る。お互いに疑心暗鬼になる。次は自分かも知れない。「犬」はいったい誰なんだ。時々語り手になる貫太郎であるはずがない。と言っても、そう思えるのは読者だけ。相手の3人にとっては貫太郎も「犬」かも知れないのだ。このあたりは本格的推理小説とは言いがたい趣である。 やがて、暗闇の中、睡眠薬か何かで全員が眠らされている間、2人目が首をつった。しかし明らかに自殺ではなく他殺だ。徐々に「犬」は限られるてくる。貫太郎以外なら2人のうちどちらかだ。 そして3人目の被害者はペットボトルの水による毒殺だった。あんな状況で全員がペットボトルの水を飲むか、とツッコミたくなる。まあ、ご都合主義であろうが、そんなことを言っても始まらない。ついに貫太郎の目の前の男と対峙する。こいつが「犬」なのか。 本格ミステリーによくあるパターンである。クローズドサークルのいわゆる”吹雪の山荘もの”であり、特に興味をそそられる、私も大好きなミステリーである。しかしこのミステリーは本格モノではなかった。読者は貫太郎が「犬」ではないことが分かる。ラストの収め方も本格モノではない。二転三転するが、状況を後出ししたどんでん返しである。そして余韻を残そうとしたかのようなラスト。 読後感は?かな。読んでいて楽しいミステリーであることは確かであるが、ラストにすべて解決とはいかない。あの3人はどうなったのだ? |
2001年4月18日(水) 「そして粛清の扉を」 |
平成12年第1回ホラーサスペンス大賞受賞の「そして粛清の扉を」を読んだ。暴走族に一人娘をひき殺された女教師が復讐の念から自分が担任するクラスを人質にスクールジャックを計る。荒れ放題の私立高校。その中でも最も手に負えない生徒だけのクラスが犯行現場となる。ストーリーは奇想天外である。残酷描写は小説ではあるがR指定でも良さそうだ。ページをめくる指が震えるという宣伝コピーは大袈裟な表現ではない。こんな小説を書く作者は正常な人間なのか?と思ってしまう。 これほど反社会的小説がよくも売れるものだ。もしかしたら、どうしようもない生徒達に常日頃頭を悩まされ続ける高校教師たちが最大の読者層なのかもしれない。なにしろ悪の限りを尽くしてきたやくざや暴力団顔負けの高校生が、周到な計画のもと、完全武装の女教師によって一人ずつ殺されていく。ストーリーの展開にいささかの躊躇も見せず、いとも簡単に生徒を殺し続ける。武器を華麗に扱い、警察との頭脳対決にも決してひるまず常に警察の数歩前を行く切れの良さは完全なる女コマンドーだ。 「バトル・ロワイヤル」と比較されているようだが、女教師が生徒28人を殺すというタブーに挑戦し、凄惨を極めるストーリーや声をあげそうになるラストの驚くべく新事実など、刺激的すぎるショッキングさはむしろ本作の方が上であろう。この作品もそのうち映画化されるのであろうか。もちろん違ったラストになるだろうが、どんな処理を施すのか興味が持たれるところだ。 |