小峰 元
2010年1月10日(日) 「アルキメデスは手を汚さない」(小峰元・著) |
![]() 昨年たまたま本屋でこの題名の文庫本を見つけた。講談社より復刊された文庫本だった。東野圭吾が初めて読んだ推理小説がこの「アルキメデスは手を汚さない」で、以来ミステリーが病みつきになったというのは有名なエピソードだ。曰く、「この小説との出会いが、本嫌いだったバカ高校生の運命を変えた」。東野圭吾はその後、「放課後」で江戸川乱歩賞を受賞する。 いわゆる青春ミステリーである。女子高校生が子宮外妊娠の中絶手術が原因で亡くなった。父親が復讐を誓い、ゆすり屋と共に娘の相手を探し出そうとする。一方、娘の相手と思われる男子高校生(柳生)が食べた弁当に毒物が混入されていた。幸い少量で命に別状はないが、殺人未遂事件として警察の捜査が入る。さらに柳生の姉が不倫関係を続けていた男が行方不明となる。姉は密室で死体となり発見され、やがて男もコンクリートに埋まった他殺死体で。。 テンポが速い展開で飽きずに読める。中盤では早くも日本家屋、密室死体の謎が解明され、あとは犯人は誰かとアリバイトリックがミステリーの中心となる。しかしその犯人もラストに行かないうちに判明する。時刻表トリックはたまたま会った老女性に親切にし、その老人が新聞の投書欄に感謝の投書をしたのがきっかけだった。つまり偶然見た新聞がトリック崩壊のきっかけとなり、少し興ざめする。 読み易いミステリーだし面白いが、当時の高校生のワルはあんなに頭が良かったのか。そのくせラストは皆純情高校生に戻る。かなり違和感がある。土建屋の社長はさもこんな人間、ゆすり屋もさもずる賢こい人間、校長、高校教師もステロタイプなど、人物表現が単純過ぎではないか。読んでいてやはり古さを感じる人物描写だった。 それでも昔読みたかったミステリー、それを30数年ごしに読みえたという満足感はある。 |