木谷 恭介

2009年4月15日(水) 「紺屋海道蔵の街殺人事件」
 列車内で読もうと花巻駅のキヨスクで買った。小谷恭介定番の2時間ドラマ的、お気軽な推理小説だ。なお「海道」は「街道」の間違いではない、「東海道」の「海道」である。念のため。
 紺屋海道は愛知県半田市にある地名で、江戸時代船の帆を染める店が数件あったことからその名が付けられたという。「紺屋の白袴」の紺屋は「コウヤ」と読むが、紺屋海道はそのまま「コンヤカイドウ」である。
 序盤はいい。おっ、いいねと思わせる。ストーリーの展開部の中盤が少し退屈になる。ラストもいまいち。結局インサイダー取引の疑惑はどうなった?数ヶ月で21億円もの大金を手にした歌津若菜は何の罪にも問われないのか。あれほど犯人らしい状況証拠の整った九条は結局犯人ではなかった。ちょっとわざとらしい、あざとい人物描写に、それはないでしょう。
 巻末にある著者本人による「初版本あとがき」がある。これが実にいい。老人問題を世に問うエッセーであろう。断食死というものを初めて知った。先月亡くなった義父がまさに断食死だった。断食死は安楽死に近いと言うではないか。
 深沢七郎の「楢山節考」について、あれは苦しかった時代の悲しい知恵だったと言う。生産性を失った老人はのうのうと生きていくことができない、年老いた母や父を捨てたのではない、自分から捨てられることを選択したのだ、など。なるほど。
 諸行無常、事実を事実として受け止め、じたばたしないで行こうよ。人間はいつかは死ぬのだ。
 あとがきの方が面白いし、本編よりあとがきが心に残る文庫本というのも珍しい。
 
2008年3月15日(土) 「函館恋唄殺人事件」
 宮之原のサポート役、小清水峡子は警察庁の中でもトップエリートの若き警視正である。峡子はひそかに宮之原に恋心を抱いているが、宮之原が長年、愛情を暖めてきた女性と再婚することを知る。函館の恵山岬(恵山町も今は合併により函館市)へ傷心のひとり旅に出かけた峡子はそこで事件に巻き込まれる。近くの露天風呂で若い女性が殺されたのだ。しかも、地元警察は峡子に疑いの眼を向ける。
 「行ったことのある地名+殺人事件」の書名を見るとつい買ってしまう。函館は去年行ったし、盛岡(ホテルカリーナなど)、秋田、角館も現場となる。2時間ドラマの原作シリーズのような題名であるが、多分(お気)軽ミステリー。寝転びながら、風呂に入りながらでも読もうか。
 まさにお気軽ミステリーだった。本格ミステリーじゃないから恋愛もあっていいが、これじゃあ読者を満足させられない。完璧なネタバレになるが、殺人は、峡子に交際をことわられた伊住の一方的な怨恨が動機であり、峡子殺人を依頼された男が間違って別の女性を殺したという設定。相手を間違った依頼殺人。こんなのあり、なのか。あんまりではないか。宮之原の再婚の相手も思わせぶりで、もしやと思ったが、こちらは関係なし。
 まあ、それでも旅情は味わうことができる。金森倉庫群、海鮮市場、大三坂、二十間坂、ハリストス正教会、聖ヨハネ教会、東本願寺など昨年の夏に1人で歩いた場所を思い起こす。でもただそれだけ。推理小説の面白さを味わうことは出来ない。
 作者の木谷恭介(こたにきょうすけ)は、ラジオ番組「小沢昭一の小沢昭一的こころ」の台本を執筆している人だということだ。
 
2002年11月4日(月) 「新幹線《のぞみ47号》消失!」
 過去に消失物ミステリーは何冊か読んだ。タンカーが消えたり豪華クルーザーから乗組員が消えるのは西村京太郎のミステリーだ。複数の家族が忽然と消失するのは野沢尚の「眠れぬ夜を抱いて」だった。また、旅客機の乗客が消失したり(夏樹静子の「蒸発」)、列車から人間が消失(赤川次郎「幽霊列車」など)するなど、人間が失踪するするミステリー、いわゆる”蒸発物”は数多い。次に読もうと購入したミステリーもずばり、「失踪者」(折原一・著)である。
 そんな数ある消失物の中で、消失させるのに一番難しいのが、線路上を走る列車であろう。飛行機ならどこへだって飛ばせる、自動車でもわき道へそらしたり、崖から落としたり、消失させるのは簡単だ。だが、レールの上を走る列車はどうしようもない。それでもローカル線なら様々な支線にダイヤの切れ目のぬって誘導して消失させるのは可能かもしれない。実際にローカル線の列車が消失するミステリーはあったと思う。
 だが、乗客700人が乗った新幹線のぞみ47号16両編成が静岡・掛川間走行中に突然消息を絶ってしまうのだ。新幹線も乗客も発見されぬまま数日が経つ。作品中刑事達は携帯電話を使用する(99年の作品)から乗客の大半は携帯電話を持っているはずだ。しかし700人乗っているはずの乗客から警察への連絡は全くなし。やがて新幹線車両は発見されるが乗客はどこにもいない。700人はいったいどこに消えてしまったのか。
 こんなことがあってたまるものか。いったいどんなトリックなのだ?文庫本・帯や裏表紙のキャッチ・コピーを見ているうちに、もうこれは買うしかない。他にも読もうと思って買っていたミステリーはあるが、何をさておいてもこれを先によまなくちゃ。
 という訳で読んだ「新幹線のぞみ47号消失!」。感想は、う〜ん、何て言ったらよいのだろう。あまりに不可解・奇想天外な事件は解明されても、面白さはイマイチ、納得できないなあ。というか、不完全燃焼、キレがない、期待しすぎてバカみたい、説得力ない!トリックと言えるかどうか、まあ、あれしか解決のしようがないだろうなという解明だった。
 木谷恭介(こたにきょうすけ)は最新作「世界一周クルーズ殺人事件」で117冊目という、売れっ子ミステリー作家の一人だという。初めて読んだのが本作であるが、次も読んでみようかなとはなれない、「新幹線《のぞみ47号》消失!」だった。

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