桐野 夏生
2008年7月29日(火) 「東京島」(桐野夏生・著)を読む 宣伝につられて読んだが・・ |
「ノンストップ最新長編。無人島に漂着した31人の男と1人の女。あたしは必ず脱出してみせる。食欲と性欲と感情を剥き出しに、生にすがりつく人間たちの極限状態を容赦なく描き、読者の手を止めさせない傑作長編誕生!」。単行本の帯にはこんな刺激的なフレーズが踊る。文庫本まで待てないよ。図書館でも待ち順30数番目とか。早速単行本を買った。 昔、「15少年漂流記」が好きだった。何度も読んだ記憶がある。「ロビンソン・クルーソー」も無人島に漂着した冒険家の物語だ。漂流もの、映画ではトム・ハンクス主演の「キャスト・アウェイ」があり、漫画では楳図かずおの「漂流教室」があった。NHKの人形劇、「ひょっこりひょうたん島」だって漂流ものだ。一コマ漫画では”無人島に1人”のパターンは数え切れないほどある。 そして、「東京島」。桐野夏生の描くこの漂流モノは男31人の中に女1人が無人島で暮らす逆ハーレム漂流記だ。男でなくても興味をそそられるシチュエーションだろう。ラストは船を作っての脱出成功か、島に船が来るのか。まあ、そんなものだろう。 作者の桐野夏生は女性であるが、この小説に繊細さは感じられず、荒々しいタッチで女と男たちを描く。男たちはそれぞれ一癖も二癖もあるような男たちだ。本名のほかに島での呼び名もあるからしばらくは誰が誰やら。推理小説のように登場人物一覧などという親切なアシストはないから、メモでも記しながら読んだ方がいいだろう。 極限状態ゆえ、登場人物が皆エゴ剥き出しだ。誰にも感情移入できず、読んでいて気持ちが荒ぶようだ。せめて女性(清子)とリーダーのユタカ(=森軍司)ぐらいは善人に設定してくれたらよかったのに。憎たらしいワタナベが無事で島に帰ってくるのも納得がいかない。フィリピン人でなく日本人であることがばれないはずはない。 そして意表をつくラスト。どんでん返しではないが、意表をつく、すっきりしないラストだ。それも途中を省略していきなりラストとなる。強引だ。ドラム缶を投げに来た日本人たちのこと、島に残ったと思われるユタカたちはどうなったのだ。中国人たちはどうしていたんだろう。2人の子どもの親は実際どちらだったのだ。落ち着くところに落ち着かないまま終りかよ。 |