乾 くるみ
2009年5月14日(木) 「リピート」(乾くるみ・著)を読む 「そして誰もいなくなった」? |
現在の記憶を持ったまま10ヶ月前にタイムトラベル(これがこの本で言うリピート)できる。競馬で儲けることもできるし、事故を未然に防ぐこともできる。仕事上の失敗は2度としない。恋人に振られた男はこっちから振ってやる。歴史を変えるという、そんな大げさなものではない。生活がちょっと良くなるぐらいか。何しろ過去に戻れるのはたったの10ヶ月前なのだから。 選ばれた10人がヘリコプターに乗り時空の割れ目から10ヶ月前にタイムスリップする。漫画チックな設定であるが、作者・乾くるみ、―「イニシエーションラブ」の著者、この本の最後の2行には本当にびっくりした―、にかかると、かなり現実味を帯びたSF的、本格ミステリーとなってしまう。 リピート後は、季節も周りの景色も人間関係も、何もかにも全く10ヶ月前に戻る。ただ、10人が普通に生活していれば良かった。全く同じように、そうすれば何度もリピートすることにより、年はとらないまま何年も生きることも可能になる、はずだった。 だが、やり直しの10ヶ月だ。誰もが前とは違う生活、少しでもより良いを望んだりする。そんなことをしてはいけないのだ。タイムトラベルのルールに反するぞ。個人の生き方、生活を変えることだって、いわゆる自分史を変えることになる。そこにタイム・パラドックスが生じるじゃないか。過去の世界では人生をやり直すなどと考えてはいけないのだ。 案の定1人は事故死、2人目は放火で焼死、3人目は自殺、そして4人目は明らかな殺人事件に巻き込まれる。タイムトラベラーは10人いるが、やがて5人目も6人目も?となると、何と、あの名作、「そして誰もいなくなった」のパターンではないか。結局ラストは誰もいなくなるのか。犯人は誰なのか。 SF+本格ミステリーのあわせ技だ。本当に面白いミステリーだ。文庫本で500ページ超だが、長さを全く感じさせない。時間を忘れて読みふける本、こんなわくわくするミステリーは久しぶりだった。しかも、なぜ10人がリピーターに選ばれたのか、なぜその10人が次々と死んでいくのか、その理由は最後まで読まずに分かるのも楽しい。かなり途中から、はは〜ん、そういうことだったのか、ってなぐあいに分かるのだ。こんなミステリーもいいもんだ。予想どおりのラストを迎える推理小説ってそんなに多くはないぞ(笑)。 語り手である大学生、毛利が探偵役かと思って読んでいた。ところが毛利は、現在の恋人のために過去の恋人をいとも簡単に殺してしまう。恋人が妊娠すると、自分だけ再びリピートしようとする。一緒にリピートしたら胎児はどうなる。10ヶ月前ならまだ影も形もないはず。毛利も「一皮むけば悪」的人間だった。そんな語り手が主人公であるのもこの小説の”ひねり技”であろう。 よく練られた設定の小説だが、論理の破綻はいくらでもありそうだ。誰か検証してみる人はいないだろうか。あの「イニシエーション・ラブ」の時間軸みたいに。 |
2009年1月21日(水) 「イニシエーション・ラブ」(乾くるみ・著)を読む 最後から2行目でびっくり仰天 |
乾(いぬい)くるみというペンネームは女性のようだが男性だ。この作品を読み初めて知った作家であるが、また次も読んでみたいと思わせるに十分、要チェック作家だった。 ライトノベルのような陳腐な恋愛小説、実はトリッキーな面白いミステリ、それがこの「イニシエーション・ラブ」だ。問題作とも言われているようだ。賛否両論があるというから、読み終えて怒る人もいるのだろうか。フェアじゃないような気もするが、よく読めばだまされる方が悪い?作者は読者に対して堂々とヒントとなる齟齬をこんなにも提示してるのに。 作者が勘違いしているのかと思われる箇所が何箇所もある。なんかおかしいなと思っていたが、あの違和感こそがこの小説のトリック、辻褄を合わせる作者の、ある意味、開き直りの仕掛けだったのた。凡庸な自分はすっかりだまされた。ラストを読んでわけが分からなくなり、もう一度はじめから斜め読みしてみた。登場人物たちが名字表記であるのにいらいらしながら。 ラストから2行目を決して先に読んではいけないと書いてある。そこを読みたくて、とにかく速くそこに到達したくて、昨夜は遅くまで読み続けた。もちろんそこに至るまでの内容も、一部妙にエロチックで、ライトノベル、恋愛小説の雰囲気で読んでいっても、それはそれで面白い。しかしあの秘密を知ったら必ず2回目を読みたくなる、特に後半(サイドB)。絶対に2度読まざるを得ないミステリ(殺人事件が起こるわけではないが)、そんな本はそうざらにあるものではない。 それにしても、かわいい顔していて女は怖い、ということか。 |