井上 一馬
2011年5月26日(木) 「二重誘拐」(井上一馬・著)を読む 読みやすいが |
![]() 突然失踪した若い女性たち。犯人は登場しない。たぶん誘拐されたのだ。しかし、なぜか彼女たちは2、3年後には戻ってくるのだ。そして、帰還した失踪者はみな一様に口をとざす。犯人につながる供述はまったくなく、別の街に行きひっそりと生活する。謎の誘拐犯はいかにして今なお彼女たちを支配しているのか? この謎はミステリーとして十分に魅力的だ。中盤までこの謎1つで全体を引っ張る。被害者の女性は一人だけではない。何人もの女性が同じように失踪し、2、3年後に帰還し、口を閉ざす。 読者はその謎をいろいろと推理するが、マインドコントロールぐらいしか思い浮かばない。作者は読者が納得できる解決編を本当に用意しているのだろうか。少し疑心暗鬼になってしまう。 警察が地道に被害者女性の周りを探る。やがて、被害者の女性のその後に、ある共通のことが起こっていることが判明する。徐々に解明されていく謎(というより警察の推理だが)。しかし、ナニこれ。こんなことがあってたまるか。もったいぶった中盤までの謎が終盤に子どもだましみたいなご都合主義。 犯人はただの変態だ。そんな男が前代未聞のこんな誘拐を思いつくか、さらに警察に逮捕もされず、何人もの女性を誘拐し続ける、ありえないよ。 まあ、ミステリーにリアリティを求めるのも無粋だが、それならスカッと読者を騙してほしかった。あるいは大どんでん返しや意外な犯人など、ミステリーをミステリー足らしめる要素をちりばめて欲しかった。それがない本書はミステリーの範疇に入るのだろうか。 身もふたもない感想になってしまったが、ラストはハート・ウォーミング。しかし屈強な主人公の刑事があんなにも涙もろいのか。 |