井上 夢人 

2007年9月11日(火) 「プラスティック」(井上夢人・著)を読む むむ・・このトリック、他にもあったぞ、でも面白い
 フロッピーディスクに入力されている日記などのファイルで構成された本格的ミステリー。ファイルは全部で54もある。それを入力したのは6人だ。読者はある系列に従ってそのファイルを読み続け、事件の概要を知らされ、そのねじれた状況、不可解な事実に混乱させられ、翻弄される。いったいこんなことがあるのか。実際に殺されたのは誰で、誰かが死んだ人間の名前を騙って生きているのか。
 まず、向井洵子の日記から始まる。洵子が初めて行った図書館では既に自分の名前で登録がされ3冊貸し出されていた。そんなはずはない。誰かが自分の名を騙っている。夫に連絡することがあり会社に電話すると、「あなたは誰ですか。向井さんの奥さんなら声で分かります」、と偽者扱い。いったいどうして?自分以外に別の自分がいるというのか?
 次の人物のファイルがまた奇妙だ。フロッピーの入手のことなど。この人間が探偵役なのか。また次の人物が入力したファイルで、なんと、向井洵子が殺される。しかし数人後のファイルで、再び向井洵子の日記が始まる。じゃあ、殺されたのはいったい誰なのだ。そして彼女の夫は行方不明、犯人は夫なのか。だが、その夫も殺される連続殺人。
 6人の人間の視点から次々と語られるストーリー。何が真実で、誰が嘘を言っているのか。いくら何でも普通では考えられない不思議な設定。
 しかし、勘の鋭いミステリーファンなら、途中からトリックに気付くかも知れない。この異常な設定はデジャビュ(既視感)。過去にこのようなミステリーは何度か読んだことがある。折原一(おりはらいち)の作品にもあったような。
 トリックが判明すれば、な〜んだ、安直だぞと思う人もいるかも知れない。それでも、前に戻って読み返せずにはいられない。なるほど、なるほど、そうだったのか。そしてラストも印象深い。読者に、ラストのファイル(54番目)には何も入力されてなかった。あなたが完結させて下さい、ということなのか。
 題名のプラスティックとは「可塑性」、つまり「思い通りの形にできる、何にでも形を変えられる」という意味である。これはヒントになる。そして、この作品は絶対に映像化できない、というのは最大のヒントであり、ネタバレでもある。
 
 

Hama'sPageのトップへ My Favorite Mysteriesのトップへ