エラリー・クイーン

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2004年12月10日(金) 「Yの悲劇」(エラリー・クイーン・著)を読む まるでジグソーパズル
 よくもこれはど異常な家族を作り出したものだ。梅毒による遺伝的なものというが、ハッター家の人間はそろいもそろって、異常で奇矯な人間ばかりだ。殺害される意地悪婆さんエミリー・ハッターを筆頭に、自殺にまで追い込まれた小心者ヨーク、天才詩人の長女バーバラ、放蕩無頼の長男コンラッド、無軌道娘の次女ジル、いじけきっているマーサ(コンラッドの妻)、それに不幸な子ども達(異常体質、ワッセルマン反応陰性など)、さらには三重苦の障害者ルイザ(先夫との間の娘)。
 ルイザが危うく毒殺される。やがてルイザが再び毒殺の標的となるが、殺害されたのは一緒に居たエミリー・ハッターだった。凶器はマンドリン。他に凶器になるのはいくらでもあるのに、なぜ犯人は、他の部屋にあったマンドリンを持ち込んでの犯行に及んだのか。犯人が分かればこれも解明される。逆も言える。つまりなぜマンドリンかが分かれば犯人も分かる。
 目撃者(?)は三重苦のルイザだけ。だが、どうやってルイザから犯人につながる情報を得るのか。彼女の触覚と嗅覚からだった。探偵役の元シェークスピア俳優ドルリー・レーンの数学的推理が冴え渡り、結局、彼女の触覚と嗅覚から犯人の身長を推理し犯人も特定する。
 古典的推理小説の代表格である。ある館での殺人事件、散りばめられた伏線、怪しい人物たち、名探偵登場、見当ハズレな推理を振り回す警部、そしてまさかの犯人。本格ミステリーの約束事がきちんと押さえられ、推理小説の醍醐味を味わえる作品である。が、正直言って、精読するのに疲れる作品でもある。
 この小説で犯人を言い当てられた人がいるだろうか。絶対犯人であるはずのない人間をあてずっぽうに言えばいいが、それでも犯人には到達できないだろう。と言う事は、犯人の設定に無理がある、つまり、一歩間違えると、ありえねえ!駄作になるということだ。傑作か駄作か、ギリギリの線での犯人設定だと思うが、いかがだろうか。念のため、探偵が犯人だったというのではない。