堂場 瞬一
2017年2月19日(日) 「GRAY」(堂場瞬一・著)を読む |
![]() 本作に出てくるのが、でかい自動車電話、公衆電話、NECのPC9801、ポケベルなど。当時はパソコンが高かった。PC本体で約40万円、カラーCRT(ディスプレー)20万円、24ドット漢字プリンター30万円、マウスも3万円ほど。本作にも、パソコンに詳しい同僚が新製品を買い周辺機器も併せて100万円もした、という記述もある。 当時私はシャープのCRT付きワープロ専用機を買った記憶がある。カシオやシャープのポケコンを買い始めたのもこの頃だった。 さて、本題に戻ろう。著名な経済評論家が主宰する「北川社会情報研究所」。大学2年生の主人公・波田は、街頭調査のバイトで見込まれ、破格の待遇で契約社員になる。それが運命を大きく狂わせる一歩だとは知らずに…。 正直、あまり面白くなかった。主人公にも脇役陣(女性など)にも共感を得なかった。堂場瞬一の粗製乱造、これは手抜き作品だと思った。 不満1;舞台を1983年に設定しているが、ストーリー上まったく必然性がない。現代でも良かった。情報はむしろ現代の方が金になる。ときどき思い出したように、ポケベルを鳴らしたり、自動車電話で話したり、奥行が長いブラウン管ディスプレーを登場させて、1983年であることを伝えるのだが、それがどうしたのだ?現代でもいいじゃないか。 不満2;主人公波田はさえない大学2年生。田舎から出てきて安いアパートに住み、1日4〜5千円のバイトに明け暮れる貧乏学生だ。1日1万円のバイトにつられ、情報会社の契約社員となる。金に目がくらみ、怪しい会社だとも思わずに昼夜働き続ける波田が、なんと後半ハードボイルドチックな探偵と化す。おいおい、と思う。この変り身はいくらなんでも異常であり、違和感あり過ぎ。 不満3;波田は2度も危険な部屋に忍び込み、誰か分からない人間に頭を凶器で殴られる。意識を失うほどの打撃だったのに、最初だけはふらつきながらもすぐに普通にサバイブするのだ。普通に考えたら危険な場所、長居は無用のはずなのに、冗長に相手の話し合いになる。危ないから逃げろよ思うが、逃げない。そのうち”空気が動き”、あるいは”空気の流れが変わり”、ガツンとくる。先日読んだ「メビウス1974」でも主人公が殴られ意識を失う場面があったが、安易にいろんな作品で使っているのか。この「グレイ」ではそれも2度。 後半、重要人物と対峙する場面が2度ある。一人は北川と、もう一人は政権与党の政調会長(だったか幹事長)と。相手にストーリーの流れを説明させるのは安易であろう。波田が動いて、推理して、なら分かるが、主人公が分からない筋立てを相手に言わせるのだ。これが数ページで終わらない。数10ページも続くのだ。政権与党の政調会長はその時初めて登場し、その場面だけで終わる。 登場人物でわけの分からないと言えば陽子もだ。おとり捜査としてバイト募集に応募してくる女性警官だったが、お互いに恋心を感じていたのかなかったのか。陽子のあの態度の急変は何だったのか。ラストまで読んでもこの陽子のその後については書かれていない。 つまらない作品を読んでしまった。ラストも取って付けたようなラストだった。オーム真理教を匂わせたような。 |
2017年2月6日(月) 「メビウス1974」(堂場瞬一・著)を読む |
![]() 軍艦島炭鉱閉鎖、小野田少尉発見、ドリフ荒井注から志村けんへ、池田高校さわやかイレブン準優勝、北の湖が21歳2ヶ月で横綱へ、ウォーターゲート事件、三菱重工爆破事件、巨人V10阻止中日優勝、長嶋茂雄引退、三井物産爆破事件、田中角栄退陣、三木内閣発足、かもめのジョナサン、ノストラダムスの大予言、寺内貫太郎一家、エクソシスト、愛と誠、・・・ なつかしいね。43年も前のことだ。 「メビウス1974」は1974年10月14日長嶋茂雄の引退試合、三井物産爆破事件が起きた所から始まる。いわゆる作中作として、主人公英二に関わりある久美子の作品として随所に挿入されるが、その第1章から始まる。 数ページの後に現代に戻る。英二はあの爆破事件以来、身を隠している。警察から逃げて逃げて、今は静岡県で不動産屋を営み、成功を収めた社長である。しかし、昔の仲間、佐知子からかかってきた1本の電話で42年前に戻る。仲間だった村木を助けてほしい。 それに反応した英二。会社を稲垣に任せ、会社を辞める。このあたり、かなり強引な展開である。 42年ぶりに東京に戻る英二。東京では村木、佐知子と出会い、弟の和彦にもつっけんどんにされるが強引に会う。安永という元・公安も英二を追っているようだ。相変わらず市民運動に加わる美保にも偶然会う。いや偶然ではなさそうだ。後で分かるが、彼の窮地はみんな仕組まれたことだったのた。 会いたくて会いたくて切ないのに、なかなか久美子には会えない。半ばストーカー行為も行なう英二。常に持ち歩く思い出の品とは何なのか。もったいぶる作者。後半、いやそれよりもっと後、全体の4分の3あたりから怒涛の展開を迎える。じれったいのを我慢して読んでいてよかったと思う。そしてラスト。ついに英二は久美子に会う。久美子からの告白に驚く英二。 面白いことは面白いが、後味が悪い。すっきりしないのだ。その不快感は何よりもこの主人公・英二のキャラクターに負うところが多い。魅力的でない。おかしいと思ったらもうそれ以上の行動には出るなよと思う。女々しく昔の女を追い続けるのも嫌な人間だ。42年間も家を出て連絡もなしのつぶて、そんな男がよくも弟に会えるな。結局バイトをして資金カンパだけの過激派シンパ。実行する勇気はない中途半端な人間だ。怖くなって逃げて、また東京に戻るが、今の世の中で、何をそんなに怖がるのだ。警察が捕まえるはずがないじゃないか。 堂場瞬が優れたストーリーテラーであることは分かる作品。 |