鮎川 哲也
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2004年10月5日(火) 「鍵孔のない扉」(鮎川哲也・著)を読む 鮎川哲也は音楽評論家だった? |
声楽家重之とピアニスト久美子の夫婦に危機が訪れた。久美子が不倫をしているのではないか。いるはずのない東京で久美子を見かけた時から夫、重之の疑惑は募る。私立探偵を雇い久美子を尾行させる。ついに久美子の嘘がばれるが、不倫を認め開き直る久美子。そして夫婦は修羅場へ。 やがて久美子の不倫の相手と思われる人間、雨宮が殺される。犯人は重之なのか。しかし鷹取という男が重之の容疑を晴らしてくれる。鷹取が重之のアリバイを照明してくれた。電話の通話記録と秘書の証言が決めてだった。しかし、この不在証明がまた別の不在証明になっていたは。。 さらに、殺された男には婚約者がいた。種々の状況から殺された男は別の人間と間違われて殺された可能性が浮かび上がる。別の人間X(エックス)とは誰か。そして日付と被害者を指定(エックス)する第2の殺人の予告電話が警察にかかる。まもなくエックスの正体も明かされる。 150ページあたりまでの序盤のこの展開は実にスピーディーで鮮やかである。有無を言わせず一気に読ませる。中断したくない面白さである。食事中も、トイレでも風呂に入りながらも、もちろん職場で45分間の休憩時間にも読んだ。本格派と言われたりもする鮎川哲也(実際は本書は本格派とは違うと思うが)の術中にはまってしまう。もったいぶらなく、明かすべき謎は速やかに読者に提供し、徐々にアリバイと密室が重要なポイントとなる推理小説へと読者をいざなう。 昭和44年の作品である。昔懐かしい交換手を通した電話がトリックに使われる。交換手の声やなまり、距離によりダイヤル直通ができたりできなかったり。やはり古さを感じさせる。電話や靴、マンションのキーなどを駆使するアリバイ崩しが中心となる後半は少々切れ味が鈍くなる。スピーディーな展開も整理しながら熟読しないと頭は混乱する。 「浜辺の歌」の3番の歌詞は、「早やたちまち波を吹き」なのか、「はやち(疾風)たちまち波を吹き」なのか。前者は主語がなくおかしい。後者が正しいのだ、とか、「荒城の月」の第三節、「垣に残るはただかつら」は正しくは「垣に残るはただ葛(かずら)」ではなくてはならない。これは土井晩翠が間違っているのだなど、鮎川哲也の日本歌曲に対する造詣の深さも紹介される。これは興味深い。 |
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