浅田 次郎
2004年10月26日(火) 「壬生義士伝・上巻」(浅田次郎・著)を読む 下巻だけでいい、という人の気持ちが分かる |
「壬生義士伝」は映画で観て涙を流した。盛岡で浅田次郎の講演も聴いた。原作を読もうと上・下巻を買ったのは昨年のこと。それ以来、ずーっと積ん読状態だった。歴史に全く興味がない私は時代物を読むよりミステリーについ手が伸びる。上・下巻という長さも読み出すモーティベーションの妨げになっていた。 それでも、最近取り出して上巻を読み出した。読み始めたら、途中で投げ出すことは基本的にしないことにしている。映画で感動した原作であるが、やはり映画とは違う。 貧しさから南部藩を脱藩し壬生浪(みぶろ)と呼ばれた新撰組に入隊した吉村貫一郎。元新撰組隊士や教え子が当時を振り返り、吉村寛一郎と彼を取り巻く人々、そしてその時代を語る。同じ事件を複数の人間の目から語ったり。気の短い人なら途中で嫌になるほどその語りは延々と続く。その回顧をじっくりと聞いている人はいったい誰なんだろう。 「壬生義士伝」は下巻を読むだけでいい、と言う人がいた。なるほど映画やテレビで「壬生義士伝」を観た人なら、そういう読み方もあるのだろう。上巻を読んだ今、なるほどと感じた。下巻は遠野にあるから、とりあえず、口直しに(?)、夏樹静子でも読むことにしよう。「Wの悲劇」か、なつかしいな。 |
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2004年9月16日(木) 「日輪の遺産」(浅田次郎・著) |
マッカーサー親子がフィリピン独立のために蓄えた財宝は時価二千億円にのぼる金塊だった。山下将軍がマラカニアン宮殿の地下からその金塊を掘り出して日本に送った。当局はその金塊を来るべき日のためにある場所に隠す。終戦直前の5日間、何も知らされない女子中学生たちが必死の思いでその秘密の作業を続ける。そして終戦と同時に作業完了。任務にあたったのは小泉中尉、真柴少佐、そして曹長(名前は後半で判明するが知ってびっくり)であるが、「女子中学生を殺せ」の命令を実行できない。しかし女子中学生たちは自ら死を選ぶ。 舞台は現代に戻る。倒産寸前の不動産会社の社長・丹羽が競馬場で怪しげな老人に出会う。その老人が死の間際に彼に渡した手帳には、その秘密作戦の詳細が書かれていた。金塊を隠した場所も当然記されている。その手帳を見ていた人物はもう一人いた。女房に逃げられ子どもを抱えるさえない男、海老沢である。 かくして、金に困るこの2人が二千億円の金塊を探す、壮大な冒険小説、かと思って読み進める。が、あれ、あれ、宝探しになかなか進んでいかない。しつこいくらい終戦前後と現代の物語が交互に描かれる。これは財宝探しの物語ではなかったのだ。昭和20年からの歴史小説であり、日本人の魂を描く感動の物語だった。 昭和20年と現代。徐々に時空の差が縮まっていく。やがて48年後(この小説は平成5年の作品)の人間として登場するある人物2人が、実はあの時の○○と○□だったと判明するとき、思わず驚きの声をあげずにいられない。私の好きなミステリーでもあった。戦争を描こうとした浅田次郎がこの年に書かなければならなかった理由が分かる。 「壬生義士伝」や「鉄道員(ぽっぽや)」で読者の涙を絞った浅田次郎は読者を泣かせるのがうまい。「日輪の遺産」にも読んでいて嗚咽を禁じえないところが何箇所が用意されている。良質の小説を読んだな、と満足できる小説である。 英訳表題は「レガシィ・オブ・ザ・サン」。かつてB29の爆撃によって壊滅した、旧中島飛行機の後身、スバル自動車。その会社が世に送り出した名車が「レガシィ」である。「あとがきにかえて」で作者は「レガシィ」に言及している。 |
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