青山 七重

2007年2月24日(土) 第136回芥川賞受賞作「ひとり日和」(青山七重・著)
 図書館情報大学は今は筑波大学に統合されたらしい。「ひとり日和」の作者、青山七重の卒業大学は筑波大学図書館情報専門学群とある。進研模試の大学ランキングではかなり差のあった2つの大学であるが、図書館情報大学卒業でも今では学歴、筑波大学卒業となるのらしい。
 教師である親の説得を意に介せず、大学にも行かずフリーターとしての生活を選ぶ知寿。遠い親戚、70歳を越えたおばあさんの所に居候し、生活ができるほど適度に仕事をし、恋人の存在もそれほど大きくはなく、恋愛も終わったり、また別の恋愛が始まったり。そんな都会の無気力な女性を淡々と、起承転結もなく書き綴った一人称小説である。まあ、芥川賞受賞作らしいと言えば、それまでだが。
 週刊文春の「阿川佐和子のこの人に会いたい」という対談記事を読んだ。阿川の、「ひとり日和」で読者に問いかけたかったことは?の質問に、「特にこれ、という強い主張はしなかったつもりですが、働くことは怖くないということは、言いたかったかもしれません」、と言っている。
 そうだろうか。派遣会社に登録し、コンパニオンやキオスクの店員などをマイペースでやっているが、「働くことは怖くない」といったテーマが伝わるとは思えない。そもそも「働くことが怖い」というイメージは一般的ではない。知寿にとっても、母親、恋人、都会、1人暮らし、仕事など、怖い存在ではない。怖いに縁のない女性ではないか。
 じゃあ、この作品のテーマは何か。20代の主人公、40代の母親、70代の吟子婆さん、それぞれの世代の、あまり深刻にならない恋愛。そんなテーマが見えてくると思うのだが、どうだろうか。2年半つき合った洋平との別れ、新しい恋人藤田くんのことは主人公知寿の恋愛。ダンス教室に通い、パートナーの家に行ったり来たりする吟子婆さんの恋愛、そして中国に赴任し台湾人ワンさんと結婚するとかしないとか言う母親の恋愛。
 これら3世代の恋愛が山場のない小説の流れの中でポイント、ポイントでアクセントとなっている。だらけそうになるストーリーにメリハリを与え、読者を飽きせないのだ。つまりこれは恋愛小説ではないのか。しかしいろいろな書評を読んでも、そんな風に、恋愛小説という紹介はなかった。現実を切り取ってただ貼り付けただけ、という厳しい評もあったが、私にとっては面白く、飽きることもなく一気に読んでしまった。


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