安生 正
2016年1月4日(月) 『生存者ゼロ」(安生正・著)を読む |
![]() 内容に少し触れよう。 北海道根室半島沖に浮かぶ石油掘削基地で職員全員が無残な死体となって発見された。炭疽菌によるテロなのか。生存者はゼロだった。 9か月後、北海道標津郡仲標津町の住民が奴らに襲われた。パンデミック(感染症の大流行)によるものなのか。無残だ。生存者ゼロ。 感染症学者・富樫が菌の解明に当たるが、奴らにたどり着けない。原因は何なのだ。 やがて、紋別、北見から足寄、帯広に至る道東の複数地域で感染症のようなものが発生し壊滅状態。 細菌学者・富樫の人間が崩れ始める。薬物による中毒症状か。富樫は神になった?黙示録とかわけの分からない言葉を吐く富樫。 道東がパニックに陥った。封鎖され脱出できな住民が根室港から大型船で海外に脱出を図るが、中国潜水艦の魚雷により沈没。定員の3倍も乗っていたが、生存者はゼロだった。 これほど死者の多い小説は過去にあったか。私は知らない。そして奴らは北海道の中心部を浸食し始める。札幌が危ない。北海道全域が壊滅する危機だ。やがては奴らは津軽海峡を渡り本州へ渡るだろう。日本が、いや日本どころではない、人類滅亡の危機である。 ここで立ち上がるのがもはや廃人と化した感染症学者である富樫、自暴自棄な自衛隊三佐の廻田、美人昆虫博士の弓削などだ。奴らの正体に気付き、ある法則を発見するが、時はすでに遅し。保身に走るまぬけな首相や閣僚たちが無能である。作者は官邸のバカさ加減を執拗に描くが、まるで震災直後の菅直人をモデルにしたような描き方である。 いやはや、この小説の着地点はどこになるのだ。すでに札幌も壊滅は近い。ノンストップ活劇にアドレナリンが出っ放し。ハリウッド映画を観るような興奮を覚えた。こんなストーリー、奇想天外な怒涛の展開に、こんなのありえない!と思いながらも引き込まれ、読むのが止められない。奴らが正体を現し、札幌市内を舐めつくそうとするクライマックスは、前半のサスペンスミステリーからB級テーストへと変化する。それでもぐいぐい読ませる力技で有無を言わせない。圧倒的な力技だ。 突っ込みどころは多い。荒削りであり、細かいところまで計算されつくしていない点はある。そんなバカなと思うが、このミス大賞に相応しい壮大なスケールのミステリーである。久しぶりに読んでいて震えた。 |
Hama'sPageのトップへ My Favorite Mysteriesのトップへ