姉小路 祐  

2004年8月10日(火) 「黄金の国(ジパング)の殺人者」(姉小路祐・著)
 佐渡汽船の待合室売店で買ったミステリーである。
 姉小路祐(あねこうじ・ゆう)は司法書士の資格を持ち、豊富な司法知識を生かした法廷ミステリーを得意とする作家だという。私は氏の作品は今回初めて読むが、この作品は、謎解きよりも人間味溢れる社会派ドラマが中心となるミステリーである。人間がよく描かれていると思う。さらに日本に不法滞在する外国人労働者の実態を詳しく紹介し、人種偏見に対する警鐘も鳴らす。主人公は他の作品でも活躍する(という)老弁護士の朝日岳之助である。
 フィリピン人出稼ぎ労働者アギーラと日本人恋人の倉敷美紀子は結婚を前提とした交際を続けている。しかしアギーラは不法滞在者。いつフィリピンに強制送還させられるか分からない。二人は合法的に結婚できるのか。当然のごとく、美紀子の父親は2人の結婚に猛反対である。
 やがてアギーラが外国人斡旋ブローカー殺害の容疑者として逮捕される。アリバイなし、動機は十分あり、物的証拠3点もある。そして数回に及ぶ公判も圧倒的にアギーラに不利である。やがて結審を迎える。果たして朝日弁護士は彼の無罪を勝ち取ることができるのか。もし無罪なら真犯人は誰なんだ?
 弁護士対検察官の対決は読み応えがある。火曜サスペンス劇場で何度か取りあげられた作品とか。そう言えば昔、法廷シーンの多い火曜サスペンス劇場を見たことがあった。姉小路祐の原作だったかどうかはまったく覚えていないが。
 謎解きの部分は簡単そうだ。アギーラが拘束されて喜ぶ人物と言えば、父親と元恋人(今でも美紀子に戻って来て欲しいと願う)である。何度も説明される背の高い犯人像。それから絞るとアギーラの上司である朱か、元恋人が犯人であろう。この2人についてはたった1箇所だけ「背が高い大男」である記述がある(注意深く読めば分かる)。背が高くてアギーラがいないと喜ぶ人間。という事は、なんだ、簡単である。真犯人は三角関係に敗れた元恋人、じゃないのか。
 まあ誰でも考え付く真犯人である。しかし、それほど謎解きに重きを置かないこの作品でも、真犯人はそう簡単に当てられない。「背の高い男」は完全に作者の意図的ミスディレクションだった。 


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