阿井 渉介 

2008年11月6日(木) 「雪列車連殺行」(阿井渉介・著)を読む 疲れた
 「A・クリスティーの『そして、だれもいなくなった』は、犯人がなぜ『十人の小さな黒人』の歌詞になぞらえて殺したか、という点が全く書かれていない。『そして・・・』に限らず、なぞらえ殺人の物語の多くが、なぜなぞらえたかという点を欠いている。そこのところをきちんとやってみたいと思いました」。
 表紙カバーに書かれている著者のことばである。これを見て惹かれ、即買った本だが、偉大なA・クリスティに挑戦とも取れるこのことば、果たして「そして・・・」を超えるミステリーなのか。
 阿井渉介という作家を初めて知った。作者名、五十音順に並べられる本棚では最初の方に位置する名前だ。苗字を優先させるだろうから、阿井渉介は、相川晶や相原大輔より前になる。当ホームページ、My Favorite Mysteriesの作者名一覧でも一躍トップに躍り出る。当然そんなことを意識して付けたペンネームなのだろう。
 ネット上に阿井渉介の作風に触れた記述を見つけた。「奇想奇天烈、ハチャメチャ強引ミステリ・シリーズである列車シリーズ。『北列車連殺行』も、期待にたがわず、やっぱりハチャメチャでありました。でもこれこそが阿井作品とも言えるのでしょう」、とある。
 たとえば、「赤い列車の悲劇」では、駅も線路も、列車も乗客も消えるのだと言う。「虹列車の悲劇」では金沢で寝台特急北陸に乗った男が、上野駅に着いた時には白骨死体となっていた。「黒い列車の悲劇」では、三陸鉄道北リアス線の車両が100メートルもないトンネルに入ったまま出てこない。数分後、反対方向からやってきた車両は、何事もなかったようにトンネルを抜けていった。
 なるほど、西村京太郎の作品に「消えた巨人軍」というのがあったが、阿井渉介も、そんなとてつもないものを消失させるなど、奇想天外な作風で知られるミステリー作家なのか。
 初めて読んだ阿井作品、この「雪列車連殺行」では、急行津軽で発見された死体が、車掌が通報する数分の間に消えうせ、翌朝デパートのショウ・ウィンドウに飾られていた。重さ80キロもある臼が男を押しつぶし、臼はふわりふわりと空を飛んで逃げて行った。やっぱり一風変わっている。無理やり「見ざる言わざる聞かざる」と「サルカニ合戦」に見立てての殺人であり、確かに強引である。動機は過去に及ぶ人間関係が複雑に絡み合い、整理して読み続けないと、つまりだらだら読みでは、かなり疲れるミステリーだ。
 それでも、北リアス線の車両がトンネル内で消える「黒い列車の悲劇」など、読んでみたくさせる作家だ。トンネルの中に、枝分かれするトンネルでも掘ってレールを敷き、そこに列車を誘導する、それぐらいしかこのトリックは説明つかないと思うが。。
 

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