1 「海猫」 監督:森田芳光 原作:谷村志穂(03年第10回島清恋愛文学賞受賞) 脚本:筒井ともみ 音楽:大島ミチル
出演:伊東美咲 佐藤浩市 仲村トオル ミムラ 深水元基 角田ともみ 三田佳子 |
今にも折れそうな、か弱い女性、薫(伊東美咲が好演)と、北の海で生きる、たくましい荒くれ男、邦一(佐藤浩市)の対比が、危なげな緊張感を生み出し、観客はすぐに、ずんずんとこの映画に引き込まれる。
薫はけなげだ。都会(函館)の女が海の女になろうと努力する。邦一と一緒にやる、慣れない昆布漁にも懸命に精を出す。身勝手な夫の蛮行にも、漁師の妻としてじっと耐える。
やがて長女が生まれる。が、この頃から薫の中にも、邦一の中にも、奇妙な亀裂が生じていく。
そして、邦一とは反目する、ナイーブな町育ちの弟、広次が薫の前に現れる。広次はキリスト教徒だった?教会によく行き、そこに飾る絵を描いている。兄とは正反対の弟だ。
「兄貴にあんたは守れねえ」。その言葉に薫の心が微妙に揺れ動く。そしてキャッチコピーの、「一度だけ、あなたに抱かれに来ました」。
ラストの修羅場では見るに耐えないシーンが連続する。心臓が締め付けられる、心臓に杭を打たれるような気持ちである。そして、手を広げて、2人、あ〜、海猫。。
昔、漁師もした私には分かる懐かしい言葉(台詞)が出てくる。多分、他の人には分からないだろう。その言葉は”とめえし”。写真の伊東美咲のように漁をする人の指示に従って小船を操る人のことを言う。山田町では”とめえ”と、”し”を省いて言ったり、”とめえっ人(と)”と言ったりもする。
私も中学までは、あわびの口開け時など、オヤジの”とめえ”をよく務めた。”おせえ(ろ)”で船を右方向に、”ふけえ(ろ)”で左方向に動かす。”ごうへえ”(Go Ahead の山田弁か?aheadは前方へ)では船を直進させる。”ごすたん”(Go sternの山田弁か?sternは船尾)はバックさせろの意味だ。あわびのいるポイントにうまく船を停めておくこと(だから停め人か)が出来なくてオヤジによく怒鳴られたものだ。
だから昆布漁のあのシーンでは、伊東美咲の気持ちが涙が出るほどよく分かった。ちなみに写真で伊東美咲が頑張って漕いでいる櫂(かい)は、山田町では”ねりげえ”という。技術を要する難しい漕ぎ方である。2本の櫂を左右に広げ、両手で交互に動かす漕ぎ方は、”くるまげえ”と言っていた。
この映画を観ると、漁師のところに嫁に来る女性はいなくなりそうだ。特に漁師の長男には誰も来たがらないだろう。もしかしたら私も漁師になっていたかも知れない。そんな私にとって今年観た映画でベスト3に入る、心に残る映画である。 |
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2 「オールド・ボーイ」 監督:パク・チャヌク 出演:チェ・ミンシク ユ・ジテ カン・ヘジョン |
原作は「漫画アクション」に連載された同名のコミック(土屋ガロン・原作 嶺岸信明・作画)だそうだ。日本の漫画を原作に韓国で映画が作られ、カンヌ映画祭でグランプリを受賞し、おまけにハリウッドでリメークされると言う。主演はジョニー・デップと噂されている。日本の映画界は指をくわえて見ているだけ。少し悲しい、かな。
平凡な酔っ払いサラリーマンが突如誘拐され、テレビとトイレだけある部屋に15年間も監禁され、そして開放される。いったい誰が、何のために。ミステリー好きにはたまらない導入である。
最近の韓流映画とは全く趣を異にする復讐劇である。誰が誰に対する復讐か。監禁された男オ・デス(チェ・ミンシク)が監禁した男デス(ユ・ジテ)に対する復讐か、いやその逆もあるぞ。チェ・ミンシクのキレタ演技が素晴らしい。随所で画面から痛さが伝わってくる。オ・デスの女性相棒の清廉さが少しの癒しになる。
それにしてもこんな不条理劇とも思える内容の映画も韓国で作られているのか。痛くて、怖くて、エロい、パワーフル、ショッキング、そんな映画である。韓国映画、恐るべし。さすがにカンヌ映画祭で「華氏911」とパルム・ドール(最優秀作品)を争った映画である。 |
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3 「コラテラル」 監督:マイケル・マン 出演:トム・クルーズ ジェイミー・フォックス |
トム・クルーズが冷酷非情なヒットマン(殺し屋)を演じる異色の作品である。アーノルド・シュワルツェネッガー主演の「コラテラル・ダメージ」という映画もあったが、全く別の作品である。「コラテラル」はどちらも「巻き添え」の意味。
人の良い極普通のタクシードライバー、マックス(ジェイミー・フォックス)が、ある晩、ロサンゼルスで客として乗せたのがプロの殺し屋ヴィンセント(トム・クルーズ)だった。ヴィンセントはその晩に5人を殺すのであるが、その手助けをさせられる、つまり「巻き添え」に遭うのがマックスである。
たった一晩の出来事がスタイリッシュな画面でサスペンスフルに描かれる。全編を流れる音楽が心地よい。夜のシーンが多いが画面が非常にきれいで印象的である。そして後半のたたみかけるアクションシーンの連続。第一級の娯楽作品である。観終わって、「ああ、面白かった」と心からそう思える作品に仕上がっている。
トム・クルーズのファンは悪役のトムに違和感を感じるかも知れない。しかし悪役でもかっこいい。弾丸で撃ち抜かれても簡単には死なない。ジェイソンのように不死身だ。悪役は個性があり、かっこよく、強ければ強いほどその映画が面白くなる。トム・クルーズの悪役、サイコーだよ。 |
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4 「今、あいにゆきます」 監督:土井裕泰 原作:市川拓司 出演:竹内結子 仲村獅童 武井 証 主題歌:ORANGE RANGE |
1年前に亡くなったはずの妻・澪が、梅雨のシーズンインと共に、父子の前に姿を現した。いったいどうなってるの?ホラー映画でも、SFでもオカルトでもない。れっきとした純愛映画である。そんなバカな、という設定であるが、有無を言わせず、映画は純愛をテーマにどんどん進行する。
初めて中村獅童を知ったのは2年ほど前、「ピンポン」(02年、曽利文彦・監督)を観た時だ。スキンヘッドのドラゴン役は強烈なイメージを植えつけてくれた。それ以降テレビでもよく見る顔であり、精悍な男らしい役者であると思っていた。実際そうであると思うのだが、しかしこの映画では演技をがらりと変えている。
県の記録保持者でもある陸上選手だった巧であるが、或る時から全く走れなくなる。何の病気か映画では触れらていなかった。以後、結婚、妻との死別、子育て。冴えない、不器用な男である。仕事に行くにも自転車で行く。病気のため家は緑多い山間の古い一軒家である。純愛映画にしろ、ホラーにしろ、死んだ人間が現れる、そんな雰囲気を持つシチュエーションである。
原作はベストセラーになった同名の小説である。原作を読んでいないので分からないが、ラストはあんなんで良かったのかなと思う。 |
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5 「誰にでも秘密がある」 監督:チャン・ヒョンス 出演:イ・ビョンホン チェ・ジウ チュ・サンミ キム・ヒジョン |
韓流、「誰にでも秘密がある」を観る。イ・ビョンホンやチェ・ジウが出演するエロチック・コメディである。かなり笑える。ゲラゲラの場面もあるが、下ネタのくすくす、にやにやの笑いが多い。
ヨン様かビョン様か。イ・ビョンホンもかなりハンサムである。日本ハムファイターズの新庄と、渡り鳥の頃の小林旭を足して2で割ったような、男が見てもいい男である。この教養あふれる、容姿端麗、完全無欠のハンサム男が、美人三姉妹をとっかえひっかえ、ああうらやましい。次女役はあの「冬ソナ」のチェ・ジウ姫である。本の虫、超真面目女のキャラが最高におかしい。
お姉さんは「オネー」、兄貴を「オニー」、お母さん(ママ)を「オマー」と言っていた。韓国語も日本語も同じような発音の言葉があるんだ。 |
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6 「隠し剣鬼の爪」 監督:山田洋二 原作:藤沢周平「隠し剣鬼の爪」「雪明り」 出演:長瀬正敏 松たか子 吉岡秀隆 小澤征悦 高島礼子 倍賞千恵子 田中邦衛 田中泯 小林稔侍 緒形拳 |
たまたまであろうが、「スウィング・ガールズ」に引き続き、東北(山形)の地で、方言丸出しで観客を楽しませてくれる映画である。監督は寅さんシリーズの山田洋二であり、時代劇は前作「たそがれ清兵衛」に続き2作目となる。この監督、原作、出演陣。ハズレのない、安心して観られる映画である。実際、心憎いほどツボを得た作り方である。
前半は百姓の娘・きえと平侍・片桐との細やかな愛情が描かれる(雪明り)。もちろん身分の違いからどちらも好意を寄せるが言葉には出さない。海を見たことがないきえを海に連れていき、そこで決別。
きえ役の松たか子が、目が大きく、顔が現代的過ぎる。高島礼子も同じように感じた。病気のきえも、やつれ感が松たか子には十分出せない。ミスキャストだったと思うが。
後半は友人を切らなければならなくなる(隠し剣鬼の爪)。一騎打ちの末、秘剣”鬼の爪”で友人を倒す。さらに悪家老(緒形拳)には必殺仕掛け人か仕事人のように、あっという間に殺害する。
ラストは、こうなって欲しいと思うように落ち着き、観客を満足させる。さすがに山田洋二監督だなあ、と感慨に浸りながら映画館を後にする。 |
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7 「2046」 監督:ウォン・カーウァイ 撮影:クリストファー・ドイル 出演:トニー・レオン 木村拓哉 コン・リー フェイ・ウォン チャン・ツィイー カリーナ・ラウ マギー・チャン |
チラシに印刷された大げさな前宣伝がすごい。
全世界が待ち望んだ、”幻の映画”の封印が、いま解かれる。
製作開始のニュース以来、その内容が一切明かされることのなかった全世界待望の一大映像プロジェクトが、5年の沈黙を破り、ついに完成する。
かつて誰も見たことのない、目を見張る映像と予想不可能なストーリー展開。
かつて誰も体験したことのない、魂を揺さぶるような興奮!
2004年、観る者の心を激しく揺さぶる「2064」の世界が、あなたを、そして映画史を新たな時代へと導く。
その不思議な未来ではミステリートレインが動き出しアンドロイドが恋に落ちる。
たいそうなフレーズである。いったいどれほどの傑作なのだろうか。何となく、SF・ラブ・サスペンス(ミステリー)かなと思う。観て自分で判断するしかない。
10月28日(木)に宮古シネマリンで観た。何、これ?プレーボーイ(もう死語かな)、トニー・レオンの女性遍歴の映画?小説家が官能小説を書く。映像は小説の中の物語か実際なのか。退廃ムードの1960年台の香港がいつの間にか眩い2064年の未来になったり。
ストーリーを楽しむより感じる映画であろう。トニー・レオンとチャン・ツィイーのラブシーンがいいねえ。マギー・チャンや、フェイ・ウォン、コン・リーなど、アジアン・ビューティがいいねえ。
よけいなのは木村拓哉。切れ切れに延べ10分ほどしか出ない。木村拓哉でなくてもいいと思うが、何故、木村拓哉なんだろう。客寄せパンダか。それにしても木村拓哉は演技が下手だ。せりふも棒読みだし。「ハウルの動く城」でも声優として出演するというが、やめてくれないかな。
木村拓哉が目的でこの映画を観に来たら、訳が分からなくてがっかりするだろう。 |
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8 「草の乱」 監督:神山征二郎 主題歌:Lyrico 音楽:Deep Forest 出演:緒方直人 藤谷美紀 杉本哲太 田中好子 林隆三 |
生糸の暴落による借金と重税に苦しむ農民たちがついに武装蜂起した。高利貸しを襲って証文を焼き、役場を襲って役人や警官を追い出してしまう。120年前の「秩父事件」と呼ばれる農民蜂起である。
リーダーは緒方直人演ずる井上伝蔵や林隆三演ずる田代らである。林隆三は存在感ある重厚な演技で申し分ないが、緒方直人はいけない。浮いている演技である。どちらかと言えば幼な顔の緒方直人が数千人の先頭に立つのはリアリズムに欠ける。
数十年後の井上も緒方自身が演じているが、あの老人風メークと老人風せりふの言い回しもわざとらしさい。学芸会や予選会じゃないんだから。ミスキャストだったと思うがな。
CG全盛のこの時代、エキストラ8000人(日本映画最大とか)を使ったという群集シーンは重みと迫力がある。さすがに顔がはっきりと分かる撮り方をしていないが、意地悪な見方をしてみた。いるいる。緊迫感のない走り方をしているエキストラが。おっ、あくびをしているのもいるぞ。茶髪はいないが、ニヤニヤした顔も写っている。それにしてもこんなによく集めたな。Webページにこの映画のエキストラ募集要項がまだアップされていた。 |
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9 「感染」 監督:落合正幸 製作:一瀬隆重 出演:佐藤浩市 南果歩 高島政伸 佐野史郎 星野真理 |
「スウィングガールズ」の予告編(というより絶賛上映中の宣伝)を見たが、またまた体全体がスウィングしていた。思わず顔の筋肉が緩む。楽しかった映画だ。再びあの女子高生らが創り出すスウィングが体中を駆け巡り気持ちがハッピーになる。その後にホラー映画か。気合を入れて、いざ、気持ち(スイッチ)を「ホラーモード」に切り替えだ。
98分の「感染」と95分の「予言」の2本立てである。いまどき珍しい。「呪怨」、「仄暗い水の底から」、「リング2」などジャパニーズホラーが元気だ。ハリウッドでリメークされヒットしているという。
「感染」は経営難の古い病院が舞台である。院内感染と医療ミスの隠蔽が主なストーリーであるが、登場人物がそれぞれ奇妙な人間ばかりである。自分の体で注射を練習する新米看護師、彼女をいじめる先輩看護師、外科縫合の練習を一晩やり続ける若手医師、鏡を見ると幻覚を見る痴呆老人、任務に忠実過ぎる看護師長、死体の腐乱を速めようと病室に暖房器具を集めるだけ集め室温を上げる医師と看護師たち、それを知っていてある行動に出る院長、唯一まともだと思っていた女医のラストの変貌、狐のお面の少年、そして溶ける急患。
みなさん個性があり面白い。性格(というより悪意)に感染するというウィルスに登場人物が、実に都合よく感染し、壊れて(溶けて)いく様は見ものである。おぞましいシーンも多いが、怖いというより気持ちが悪い。よくやるわと怖いより笑ってしまうシーンもあった。飛び上がりたい怖さを笑いでごまかしているのかもしれない。
次から次へと感染するウィルスは内臓を溶かすものである。被害者を見て、医者が真面目な顔して言っていた、「内臓がないぞぉ」。私は思い切り笑ったが、他には誰も笑わなかった。これって、立派なオヤジギャグだと思うのだが。
この手の映画によくある、あるシーンに意図しない人間の顔が映っていたとかいうやつ。2箇所もあったそうだが、私は気が付かなかった。 |
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10 「予言」 監督:鶴田法男 原作:つのだじろう「恐怖新聞」 出演:三上博史 酒井法子 掘北真希 小野真弓 |
オープニングで、原作がつのだじろうの「恐怖新聞」であることを初めて知った。昔マンガ週刊誌に連載された「恐怖新聞」は何度か読んだことがある。ちなみに「メリー・ジェーン」のつのだ☆ひろは彼の弟だそうだ。
不幸な予言をする恐怖新聞。自分の娘が事故死する新聞の記事を見た主人公がその通りに娘を失くす。数年後、離婚した夫婦が恐怖新聞をきっかけに再び会い、様々な恐怖を体験する。
恐怖新聞は予知能力を持った人間にだけ配達される。記事を載せる新聞の切れ端が風に乗って運ばれてくるのもその人間にだけである。ただその人間も恐怖新聞に犠牲者として掲載され、その通りに死ぬ。三上博史が教諭を務める高校の女子生徒もその一人である。
恐怖新聞により不幸な未来が分かった場合、人間はそれを変えることができるのか。ラストは最初の事故のシーンの再現であるが、犠牲になる人間が違う。本当に死ぬのは、妻なのか、自分なのか、娘は助けたいという思いもある。何種類もバリエーションが考えられるラストである。
酒井法子って、あの国民的美少女と言われた(違うかな?)ノリピーだったのか。知らなかった。 |
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