【薄明風】
きっと夜明けだと思われる。ピンと張った空気が青く、ただ青く漂っている。
かすかに水気を含んで冷たい。足もとはさらさらに乾いた真っ白な砂。きめは細かいが、粉のように手応えのないものでもなく。
空は闇に似て深く青く、だが月も星もない。
背後の海に潮の香はなく、寄せては返すが波音もなく、ただ静寂の音がしんしんと耳の奥で低く甲高く、かすかに唸っている。
波をかぶっても色の変わらない真っ白い砂が視界の果てまで。
底まで透かし見える透明で青い波が視界の果てまで。
世界の区切りまで、ただそればかり。
傍らに一本の木が立っている。緑はさほど多くなく、葉は針のよう。松によく似ているしそんな気もするが、幹が滑らかなのでおそらく違う。
砂と海と木。それだけ。他には貝殻ひとつ落ちていない。本当にそれだけ。
地平の向こうから女が走ってくる。女は真っ白な布地の、ベールをなくしたイスラム教徒のような服を着て、長い黒髪をなびかせて走ってくる。自分と同じ顔をした女が、息を弾ませて走ってくる。
どちらへ行けばいいと女が言う。
私は手を挙げて一方の海岸線を指し示す。女は頷いてまた走り出す。
白い砂の上に女の足跡が筋になって伸びている。
地平の向こうから女が走ってくる。女は真っ黒な布地の、ベールをなくしたイスラム教徒のような服を着て、長い黒髪をなびかせて走ってくる。自分と同じ顔をした女が、息を弾ませて走ってくる。
どちらへ行ったのかと女が言う。
私は手を挙げてもう一方の海岸線を指し示す。女は頷いて走り出す。
白い砂の上に女の足跡が筋になって伸びている。
風が強く吹くと私は空へ舞い上がる。闇に似て深く青く、だが月も星もない。世界の果てまで白い砂と、世界の果てまで青い海。
私は空に留まっている。風は冷たく水気を含んで、静かに頬を撫で、人のような感触で腰に腕をまわし、人のような声で言う。
見えるか。
見えると私が答える。
白い女が水際を走る。
黒い女が水際を走る。
砂海の上に一筋の足跡。女たちはどんどん離れていく。走り続け、離れ続けて世界の端にたどり着く。
そこでふたりは出会うだろう。
視界の端に光。まばゆいばかりの青。向き直ると水平線から青い星が昇る。
巨大で真っ青な星。
ぽたぽたと水を滴らせて昇ってくる。
滴も光を受けて青く、しかし水面は決して乱れることなく、氷のように冷たく凪いで、ただ音もなく、寄せては返し。
当時は中学校か高校だったと思います。これはほとんど手を入れていません。夢の風景も自分が感じた印象もそのまんま。
あ、でも服は違いますね。書くに当たってなんと表現しようか考えて、いちばん近そうなのがイスラム圏の女性の服だったという。実際にはもうちょっとファンタジー系な格好でしたけど。
もう20年以上前の夢なのです。たいへん印象的でした。