【祖母が女学生だった頃】
祖母はたいへん剛毅なお人で、体の弱い祖父に代わり一家の家計を支えていました。峠を越えて隣市まで行商したりとかね。子供9人も産んだ丈夫な肝っ玉母ちゃんでした。残念ながら御歳86で他界しましたが、若い頃は美人でグラマーだったと聞いたことがあります。ま、確かにかわいいばーちゃんでしたけど。
この祖母というのが、孫が泣くと「山から狼が来て食われてしまうぞ」と言う人だったんですね。おばあちゃん子で泣き虫だった青木はしょっちゅう言われてました。でもさ、子供は怖くなって余計に泣くと思うんだよ、ばーちゃん……
この「山から○○が来て」というのは、地方ごとにバリエーションがあるんですね。鬼だったりお化けだったり、あと聞いたのはなんだったかな。いろいろありました。
まあとにかく、寝物語にいろんなことを話してくれるひとだったんですよ。
祖母の話の中には、聞いたあと怖くなって眠れなくなるようなのも混じっていました。それでいて自分は話しながらあっさり眠ってしまうんだから、いい気なモンです。子供の頃、青木は寝つきが悪かったんで苦労しましたよ。
といっても多かったのは、やはり昔話ですけどね。「かちかち山」とか「お月お星(これはたぶん地方の話)」とか、まあ、そりゃねーよと言いたくなる話ばっかりでしたが。戦争の話もあったかな。大戦ふたつとも経験したお人なもんで(わが市はイナカだもんで直接爆撃されたことはないんですけどね。隣市に製鉄所と鉱山があったから、爆撃機はいっぱい飛んだらしいです)、よほど怖かったんでしょう。
そして、わりとホラーな話。いくつかあったんですが、ここでは軽いのをひとつだけ。
たどたどしいひらがなしか書けない祖母でしたが、学校には行ってました。尋常小学校。
ご近所の娘さんたち何人かと一緒に通っていたんだそうです。
ある日、通学路にある一軒のお宅でご不幸があったんだそうです。今日はお通夜なんだねーなんて言いながら歩いていて、ふと、見た先に浮いてたんですよ。
人魂。軒先に、ぼんやりと。
半ベソかきながら家まで逃げ帰ったんだよと、しみじみ話してくれました。それぞれが一目散に家に走ったから、誰とどこまで一緒だったかもわからなかったそうで。翌日学校に行くとき全員いたからほっとした、なんて言ってました。しめくくりの言葉は、しばらく怖くてその辺りは通れなかった。
寝る前にそんな話されるほうが怖いよ、ばーちゃん。
すっかり怯える孫にはお構いなしに、話し終えて満足した祖母はさっさと高イビキ、なのです。いっつも。