【黒い猫】
たとえばこんな風景だったとする。
夕暮れと夜のあいだ、斜陽の赤みが完全に消えて、だがまだ闇には届かない。太陽の光が名残惜しげに青い時間を留めおいて、月がまだ溶けかけの氷のように、うっすらと透けている。
山並みを抜ける坂道。アスファルトはただの黒い帯になって、坂道の頂点でとぎれる。道沿いに雑木が並んで隙間から広い空間を望むことができる。
青い空気が闇に近くなり、いよいよ増してくる月光に照らされた向こう側には、しらじらと、砂漠。
白銀の輪郭に切り取られてピラミッドが並んでいる。
こんな風景の中にいたとして。
それでは私はここでと、友人は砂漠に降り立ち、歩いていった。向かう先には三角錐の石組み。幻に似た紫がかりの影を伸ばして、白銀に縁取られて並んでいる。
青い時間の向こうにピラミッド。
私と残りの友人たちはまたアスファルトの上を歩きはじめる。
長い長い坂道は頂点でカーブになって消えている。
砂の上で黒い影が動く。目を向けると見えないが、視界の端ではなにかが動いている。月の光を照り返す白い砂の上を黒い小さな影が歩いている。
私と友人たちはゆっくりと坂道を上っている。
もはや視界を遮る木立もなく、白いガードレールの向こうは一面に砂漠。時間は青く、しかし空は夜の闇。星がない。ただ月だけが煌々と満ちている。
月光を照り返してぼんやり浮かぶ白銀の砂漠の、蜃気楼に似た地平線を遮って、ピラミッドがみっつ佇んでいる。
今はもうアスファルトさえ、光に包まれて銀色の帯。
白いガードレールの下をするりとくぐって猫が出てきた。やわらかそうな毛並みは月の下でも黒。艶やかに、黒曜石を水にして染めたように、漆黒。
緑の瞳がこちらを向いた。
あの目は真緑色の蛍光塗料でできている。
縦長の瞳孔がじっと坂道を見下ろしている。
私の視界が猫の瞳でいっぱいになると、視線が合った。
その光景は、こんなふうだった。
この夢を見たのは高校か大学か、とにかくそのへんです。夢分析とか一時期はやりましたけど、なんかそういうふうにしてしまうのも味気ないですよね。幻は幻のままにしておきたい……っていうのはだめなんですかね。
前半部分もあったんですけど、そっちはふつうの夢っぽいんですよ。途中から妙に幻想ちっくになっちゃって。
不思議なものです。